横須賀美術館の美術品22億円は適切なのか?

 コロナ対策の財源が必要であり、コロナ禍で来年度税収も大きく落ち込む見込みだ。そのため、意外なところにムダと財源が転がっていないか、目を光らせて連日分析している。

 今日は、横須賀美術館の絵画などの収蔵品を分析した。
 過去記事「美術館撤退論(前編)」では、美術品を手に入れるために払ったコストを約16億円と積算していたが、今回、収蔵品リストを資料照会で入手したところ22億円だった。
 →収蔵品リスト2019年度末小林加工版(Excel)
 過去記事では開館準備が始まった1999年からのコストしか積み上げていないが、美術品は1980年代から収集していたようなので、そこを拾えていなかったようだ。

 このリストを例によってデータ可視化してみた。良ければリンク先の動くグラフでご覧頂けると幸いだ。
 →横須賀美術館収蔵品の分析

 以下にも、いくつかのグラフを貼り付けながら、見えてきたことをお伝えしたい。

●沢田市長が去ってからは継子のよう
種別購入額.png 美術館は沢田市長の構想と思われているが、横山市長時代から美術品を収集して準備していたことがわかる。当時から沢田氏は助役として市政に関わっていたとはいえ、横山市長も是としていたということだ。
 ところが、2005年の沢田市長の退任後、美術館は不遇の時代を迎える。蒲谷市長も2006年度には1億円弱の美術品を購入したものの、これはおそらく基金に積んであった残りだろう。以降、蒲谷市長・吉田市長・上地市長の3代にわたり、一切の美術品を購入していない。まるで横須賀美術館は、親を亡くした継子のようだ。

●買ってないのに美術品が増えるのは?
種別入手点数.png 2007年度以降は美術品を購入していないが、美術品の入手は続いている。これは主に寄贈によるものだ。
 なお、1997年に大量の水彩画を入手しているのは、谷内六郎氏の1300点以上の水彩画を一括して寄贈されたためである。
 ちなみに、寄贈を受けた美術品の評価額は全部で約24億円になるようだ。



●油彩の絵は高いの?
種別購入点数.png 種別の購入額を見ると、ピンク色の油彩が大半で2/3の67%を占める。2位の日本画21%を大きく引き離す。
 しかし、購入点数で見ると、油彩は1/3の36%でしかない。作品別購入額をよく見ていくと、高額な作品が何点かあり、大きく購入額を引き上げていることがわかる。
 取得額Top10を見ると次の通りで、2点を除いて油彩だ。
順位 分類 作品名 作家名 取得額
1 油彩 窓のある建物(パリ風景) 佐伯祐三 76,000,000
2 油彩 少女 中村彝 76,000,000
3 油彩 前向きの裸女 小出楢重 76,000,000
4 油彩 毛皮の女 国吉康雄 60,000,000
5 日本画 狐 竹内栖鳳 56,000,000
6 油彩 河原 須田国太郎 56,000,000
7 油彩 独立美術首途;第2の誕生 55,000,000
8 油彩 魚 岡鹿之助 45,000,000
9 素描 のらくら者 村山槐多 44,000,000
10 油彩 お濠端 松本竣介 42,000,000

 素人考えでは、1点で7600万円払うよりも、同じお金で別な絵を何点か買ったほうがトクなのではないか、という気もする。よくわからない。
 購入した437点の主な基本統計量は次の通りだ。
 ※複数点で1組の作品は、まとめて1点として扱った
・最大値 7600万円
・最小値 4万円
・平均値 503万円
・中央値 125万円

 上位5%(22点)で9億5500万円となり、これは購入額の43%を占める。
 上位10%(44点)で13億3170万円となり、これは購入額の60%を占める。
 上位20%(87点)で16億6918万円となり、これは購入額の76%を占める。いわゆるニッパチの法則(パレートの法則)がここでも当てはまった。

●「収集方針」は妥当なのか?
 22億円を払って美術品を揃えたわけだが、それでも美術館としては二流・三流の格だと言われたことがある。手持ちの美術品を他の美術館に貸し出して、貸し借りしながら企画展を組むのが美術館の世界の一般的な姿らしく、ある程度いい美術品を持っていないと、いい美術品を貸してもらえないらしい。
 そのため、横須賀美術館の学芸員らは、トリックアートやサブカルチャーの企画展など、「担保」となる美術品が少ない中でも組める企画を工夫しながら組んでこられたと聞いている。
 22億円を人口39万人強で割ると約5,600円。市民一人あたり6千円ずつ払って美術品を買った計算になる。なかなかの金額だ。

 横須賀美術館の「収集方針」では、次を掲げる。
・横須賀・三浦半島にゆかりのある作家の作品
・横須賀・三浦半島を題材とした作品
・「海」を描いた作品
・日本の近現代美術を概観できる作品

 横須賀市が運営する美術館の意義は、どこにあるのだろうか?
 地元の作家の作品を置いて、よその街の方々に見に来てもらうことが大事なのだろうか?
 よその街の作品を借りてきて、横須賀市民に見てもらうことが大事なのだろうか?

 美術的価値が全く分からない都市経営者の私にとっては、美術品の価値とは集客力と社会的意義ということになる。
 その絵が観たくて遠くから人が足を運ぶような作品はどれだけあるのだろうか?
 ピカソのゲルニカのような歴史に残る人道的な意義を持つ作品はあるのだろうか?
 あるいは、組み合わせたり網羅的に収集することで集客力が高まるような作品を集めているだろうか?

 このあたり、知見が無いため、専門家を辿って調べてみたい。

●美術品も処分してはどうか?
 また、図書館であれば、資料収集方針があって、新刊本などはどんどん廃棄している。そうしなければ、価値ある資料を残していく余地が無くなるからだ。
 同様に、美術館の場合も収蔵庫には限りがあるわけであり、際限なく収集するわけにいかない。どうやって処分するのだろう?
 新刊本のように焼却処分はできない。オークションで販売するのだろうか? 無償で市民に頒布するのだろうか?
 これまでは処分した話を聞かないが、コロナ禍で財政が痛んだ今、高く売れる美術品で必ずしも横須賀美術館で保有していなくてもいいものは、売却してもいいのではないか?
 例えば取得額Top9の4400万円で入手した素描『のらくら者』(『のらく者』との説もある)は、村山槐多という人気のある作家の作品だ。ところで、村山槐多が何かしらのゆかりがあるとすれば、1917年に友達と三崎に無銭旅行に来て葉山警察署のお世話になったエピソード程度ではないのだろうか? しかし、『のらくら者』が描かれたのは1916年。だとすれば、横須賀美術館が所有する必然性は薄いと思う。こういう作品を焦らずに数点売却すれば、数億円にはなるかもしれない。
 あるいは、収集方針自体をこの機に見直すとすれば、もっと大幅に放出することもあり得る。

 いずれにしても、美術品にはお金がかかる。「30万人都市以上で博物館か美術館を持つのが相場」とも言われる中、県庁所在地でもないのに横須賀美術館・自然博物館・人文博物館の3館を抱えている本市は、本来の実力以上に背伸びをしすぎたと思う。しかも、近所には観音崎自然博物館や近代美術館葉山館などもあるのだ。
 美術館を抱えるパトロンとなるには、倉敷紡績の大原孫三郎のような経済力と覚悟が本来、必要だったのだと思う。

"横須賀美術館の美術品22億円は適切なのか?" へのコメントを書く

お名前:
メールアドレス:[必須入力]
ホームページアドレス:
コメント: