ソレイユの丘のフルコスト分析 ~市民が毎年1,000円ずつ払うことに納得できるか?~

IMG_0768.JPG 過去記事「芸術劇場廃止論」「美術館撤退論」に続いて、「ハコモノ3兄弟」と呼ばれたもう一つの施設「ソレイユの丘」も取り上げないわけにいかないだろう。コロナ禍でこもっていた4月にデータを調べ上げ、その後、寝かせてしまっていたのでご報告したい。
「ハコモノ3兄弟」の概要
 【施設名】 【建設費】 【管理運営費】(争点化当時)
・芸術劇場  377億  5億5千万
・美術館    47億  3億8千万
・ソレイユの丘 36億  4億

 なお、公園をPFI(民間資金導入)により整備する「Park-PFI」が、大阪城公園などの成功を受けて現在では日本全国でブームの様相を呈している。そして、あまり知られていないが、実は日本初の「Park-PFI」こそ、長井海の手公園、愛称「ソレイユの丘」だった。

●ソレイユの丘、誕生までの歴史
 第二次大戦に際し、長井4丁目の高台にある農地が旧海軍に接収された。
 その後、敗戦を迎え、農民たちは当然ながら返還されると思ったが、今度は米軍が引き続き接収することとなった。市内の研究家・新倉裕史氏の『横須賀、基地の街を歩きつづけて』に詳しいが、農民の中には優れたリーダーがいて返還を求めて様々な運動を起こしたものの、占領軍には抗えなかった。相模湾を望む絶景の土地は「長井住宅地区」と呼ばれる米軍住宅となった。

 その後、昭和50年代に入って、ようやくその土地が米軍から返還されることになった。ただし、返還先は元の農民ではなく横須賀市となった。
 軍転法(旧軍港市転換法)に基づいて旧軍港市である横須賀市が国から無償返還を受けるには、「こんな用途に使いたい」という行政目的が必要だ。そこで、国と調整し公園として整備することになり、内容を何年間も検討。その結果が、南フランスの農園をなぜかイメージした体験型テーマパーク「ソレイユの丘」だった。「ソレイユ」はフランス語で「太陽」の意だという。バブルの余韻が残り、全国的に「オランダ村」や「ドイツ村」などが次々登場していた時代の話だ。

 ところが、バブル崩壊とその後の経済対策の公共事業の負担は重く、ハコモノ行政のツケで借金まみれとなっていて、新しく施設を作る体力がなくなってきた。しかし、公園整備をしないと国から土地が返還されない。そこで着目したのが、当時、日本に持ち込まれ始めた「PFI方式」だった。
 「PFI方式」と聞くと、なんだか難しいようだが、要するにケータイの割賦販売と同じだと思えばいい。「契約すれば、先に端末をお渡しします。端末代は月額料金にコミコミで、とってもおトクですよ。その代わり、2年契約が条件で、途中解約すると違約金高いですよ」という、あのイメージだ。
 もろもろ端折ってソレイユの丘のスキームをわかりやすく説明すると、こんな具合になる。「私ども民間企業のお金で先に公園を整備して提供しますよ。施設整備代は最初に半金ほど頂き、残りの半金は10年かけて市が分割払いしてくれればいいです。その代わり、10年間はうちの会社で運営させて頂くことが条件ですよ。その間、民間ならではの創意工夫で公園内で様々な事業を手掛けて、がんばってお客さん呼びますから、その売り上げもうちの会社がもらいます。ただし、その分、横須賀市さんが払うお金は安くしておきますから。悪い話じゃないでしょ?」。

●コストも運営も問題だらけだった指定管理者
 かくして2003年に(株)横須賀ファームと契約し、2005年4月にソレイユの丘は開園した。
 この横須賀ファームという会社は、当時、全国各地で体験農園型テーマパークを展開していた愛媛県の株式会社ファームが、ソレイユの丘を運営するために設立したグループ会社だ。ただし、結果から言えば、この会社との契約は失敗だった。施設を活かしてせっせと稼ごうとするのではなく、安定的に支払われる年間4億円の運営委託費の枠内で手をかけずに最低限の管理をしていたように見える。
 そしてこの間、様々な問題も起きた。
 従業員は約130名と、地元住民を中心に多くの雇用が生まれたようにも見えるが、多くはパートやアルバイトだった。そして、「雨が降ってお客さんが来ないから、今日は早く帰っていい」と急な時間短縮が頻繁にあって、平気で不利益変更がされていたようだ。会社側は従業員に同意をとっていると主張していたが、多くの不満の声が寄せられていたので実態は推して知るべしだろう。
 また、当初は「地元の新鮮な農水産物を市場で販売したり、レストランで食材として使ったりする」という話だったが、守られなかった。お土産売場には全国各地の土産物が並び、レストランには遠洋物のマグロはあっても近海物の地魚はない。南欧風がコンセプトなのに、南欧発の地産地消スローフードにも程遠い。ちなみに、新鮮どころか消費期限隠しの魚介や野菜を使って2008年には新聞沙汰にさえなった。

 その後、10年間の契約が満了し、再び指定管理者の選考を行ったところ、横須賀ファームは選から漏れた。おそらくそのためだろう。株式会社ファームは翌2016年に民事再生法を申請し、倒産した。
来場者数の推移.png なお、2015年から8年間契約で、西武造園を核とする長井海の手公園パートナーズと指定管理契約を結ぶこととなった。運営委託料はファームが年間4億円だったのに対し、パートナーズは年間約2億6000万円と、約2/3になった。一方で、集客数はファーム時代の平均年間600,154人に対し、パートナーズに移ってからは年間690,212人へと伸びている。加えて、パートナーズは自主事業として自ら投資をし、観覧車も備えた。公民連携の本来の創意工夫がなされるようになったと言える。

●ソレイユの丘のフルコスト:現時点で130億円
ソレイユの丘26年間のフルコスト.png では、フルコストでどの程度の税金を投じてきたのか?
 結果としては、開園準備の10年間と開園後の16年間を合せて、およそ130億円だった。
 実際には、市債の利払いや担当職員の人件費などおそらく数億円分は含まれていないが、誰よりも網羅的に積算している自負はある。公園本体が106億円、公園までの道路整備が24億円で、意外と道路も馬鹿にならないことがわかる。

 なお、「小林の言っていることは嘘なんじゃないか?」と疑う人が検証できるよう、26年分の決算資料を積み上げた元データを共有しておく
 →soleil20200412.xls
投資的経費と経常的経費の累計.png
 イニシャル・コストにあたる投資的経費が約75億円(開園後の投資も含む)。ランニング・コストにあたる経常的経費が約55億円。芸術劇場ほどではないものの施設整備に多額の投資をした公園だということがわかる。





年度別の投資的経費と経常的経費.png
 これを年度別に見ると、2005年の開園後の10年間は、指定管理料と施設の買取費用が定額で平準化されておりPFIの特徴がよく出ている。





年度別の詳細な経費.png
 同じグラフを、より詳しく費目ごとに色分けすると、このような感じだ。赤と黄色の建設費用と薄い緑の指定管理料が大半を占める。





支払先ごとの累計.png
 支払先別に見ると、初期の建設と運営を担ったファームに全体の6割近いお金を払ってきた格好だ。
 結局のところ、民間は役所よりも建設コストが安くあげられると言われるが、今回のケースで言えば安くならなかったのではないか。設計や施設の企画から市が関与しており、民間の創意工夫が活かされなかったように思う。何より、ファームのような民間企業が建設資金を借りれば、行政より銀行からの借入金利が高くつく。つまり、いいとこ取りの逆で悪いとこどりした格好だ。



ソレイユの丘にかかる収入.png なお、収入面では国から約10億円、県から2億円の補助金等を受けている。支出の1割程度だ。
 公園内の駐車券代や飲食代・乗り物代などの売上げは、当初から全て指定管理者が受け取る契約なので、ここには含まれない。






●市民一人当たり33,000円払ってきた!
 これらの経費を横須賀市推計人口の39万人で割ると次のようになる。
・投資的経費19,019円
・経常的経費14,201円
 これまでに約33,000円払ってきた計算だ。
 ざっくり言えば、赤ちゃんからお年寄りまで、ソレイユの丘の入会金を最初に20,000円取られて、その他に年会費を毎年1,000円ずつ徴収されているイメージだ。ちなみに年会費は、ファーム時代の最初の10年間は1,000円で、現在は700円のイメージだ。
 みなさんは、それだけのお金を払う価値がある場所だと感じるだろうか?

●ソレイユの丘の総括
 私は、芸術劇場や美術館と違って、ソレイユの丘は整備してよかったと思う。整備しなければ国から返還されなかったし、企画の方向性は悪くなかった。民間の発想で、お役所らしくないサービスを提供できたのも事実で、そこは素直に評価すべきだろう。
 しかし、お金はかかりすぎたと思う。
 とりわけ、大手携帯キャリアのケータイが初期費用は安くても月額料金が高くて2年間しばりで結局高くつくのと同様に、ファームとの10年契約のしばりはPFIとはいえ逆に高くついた。しかも、事業者にやる気があれば高くてもサービス水準は上がったろうが、稼ぐ気のない事業者だった。かといって、10年間は市に運営権もないため、ニーズや時代に合わせた大胆なサービス内容の見直しができなかった。園内の売上を全額わたしている割に、指定管理料の設定も高すぎた。稼ぐ力のある民間事業者と組んで最善の形になっていれば、半額の入会金10,000円と年会費500円に抑えることもできたのではないかと思う。
 とはいえ、これらは後知恵だ。いま大事なことは、今後どうするかだ。

●ソレイユの丘の今後:これからも毎年1,000円
 2020年6月の議会にソレイユの丘の今後についての議案が提出された。
・01-議案-12-01 環境政策部(R2年6月定例).pdf
・01-議案-12-02 環境政策部別冊1(R2年6月定例).pdf
 ざっくり言うと、新たな事業者と2023~2041年までの19 年間の契約を新たに結んで、その事業者にはPark-PFI方式で古くなった施設を新たに魅力ある施設に更新してもらおうという内容だ。ソレイユの丘の場合、大阪城公園のように市がお金を出さずに民間資金だけで整備・運営してもらうことは望めないようで、合計66.5億円かける案だ。市が負担する公共性の高い部分の施設整備に15億円かけるほか、民間事業者には19年間で51.5億円の指定管理料を払うことを条件に投資をしてもらって、収益性の高い部分の施設整備をしてもらうことを狙いとしている。
 19年間で66.5億円だから、年間約3億5000万円。今後19年間で人口は30万人を割り込むだろうから、人口で割ると毎年1,000円ずつ年会費を払うイメージだろう。
 「これまでと負担感が変わらないじゃないか! アンタ、年会費は半額の500円にしたいってさっき言ったろ?」と言われそうだ。確かに、私ももっと安くできるんじゃないかとも思う。ただし、国から隣接地の譲渡を受けてこれまでよりも公園が広くなったのと、荒崎公園も一体的に運用することになっているので、サービス量が増えることに加え、民間資金で観覧車のような新たな機能が加わることも期待できる。
 迷ったが、私はこの議案に賛成した。とはいえ、本来ならば、議決前に議会として広聴会を開くべき案件だったと反省している。実力不足で申し訳なく思っている。

 今後の動きとしては、今年9月~12月の間に次期の指定管理者の選考をすることになる。その提案内容を吟味し、51.5億円にふさわしい提案か見極めることが、次の大事な仕事となると考えている。
以上

 →なお、表をいじりながら詳しく見たい方はTableauPublicで公開してあります。

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