芸術劇場廃止論(前編) ~なんと658億円! 30年分のコスト分析~

Holiday_concert_at_the_Yokosuka_Art_Theatre_performed_by_the_U.S._7th_Fleet_Band_and_the_JMSDF_Yokosuka_Band,_-11_Dec._2012_a.jpg●芸術劇場って何?
 バブル時代の過剰投資として注目を集めた横須賀芸術劇場。横山市長が企画し、当時の議会が承認し、1994年2月に開館した。
 横須賀美術館・ソレイユの丘と並んで「ハコモノ3兄弟」とも呼ばれ、市長選や市議選の争点ともなってきた。とりわけ、建設費用のケタが違う「長男坊」の芸術劇場は常に注目を集めてきた。
「ハコモノ3兄弟」の概要
 【施設名】 【建設費】 【管理運営費】(争点化当時)
・芸術劇場  377億  5億5千万
・美術館    47億  3億8千万
・ソレイユの丘 36億  4億

「オペラホールなのに本格的オペラが公演できない仕様になっている!」
「本格的オペラは、わざわざ横須賀市なんかで公演などしない。東京・横浜に行くわ!」
「そもそも、EMクラブを残しておいたほうが人を呼べたんじゃないか?」
「2000人規模は過大ではないか?」
といった根本的な問題点を置き去りにしたまま、時代の空気と再開発を手掛けたUR(都市再生機構)の甘い言葉に乗せられて突っ走ってしまった。私は当時、横須賀市民ではなかったので渦中にはいなかったが、そう聞いている。

●芸術劇場のフルコストを調べてみた
 ただし、上記のような概要情報は知られてきたが、実際にかかったフルコストについては、市の担当者も含め誰も知らなかった。加藤ゆうすけ議員が「来年度予算の資料を見ると、芸術劇場の設備更新経費がこれから高くなるようだ」ということに気付いて、共有してくれたこともあって、「そろそろ本気出すか」と一念発起した。そこで今回、芸術劇場の一生涯のコストについてLCA(ライフ・サイクル・アセスメント)で調査することとした。
30年間のフルコスト.png
 結論から言うと、今までの半生で658億円だ。右の表が詳細の内訳だ。
 ただし、まだ一生涯のコストは把握できていない。あと、「フルコスト」と言いながら、市職員の人件費が含まれていない。おそらく数億円単位でかかっているだろう。
 建設準備が始まった1986年度から、経費の見込みが立っている2024年度までの集計となる。2019年度以降は見込額だ。実際に土地建物を購入した1993年度から数えて32年分。公共施設の寿命は60年以上と言われるため、ちょうど折り返し地点と言っていい。

 ところで、この金額を3/1現在の人口で割ると、横須賀市民一人当たり16万7000円。芸術劇場を利用した人も利用していない人も、赤ちゃんからお年寄りまで、16万円超を払ったことになる。私は、10回ほど利用しているので、1回あたりチケット代の他に1万6000円も払った計算になる。どうも釈然としない。

 なお、「小林の言っていることは嘘なんじゃないか?」と疑う人が検証できるよう、30年分の決算資料を議会事務局に手配頂いて私が一冊ずつ手入力して2日間かけて調査した元データを共有しておく
 →YokosukaTheaterCenterLCA20200311.xlsx

積み上げ棒グラフ.png●コストを分析してみた
 「芸術劇場には377億円かかっている」というのが通説だった。しかし、今回の分析で、実際にかかったイニシャル・コストは428億円だったこともわかった。再開発組合への31億円の補助と、運営を任せる外郭団体への11億円の出資金が大きい。
 ただし、再開発組合への補助に際しては、国からの補助金が15億円弱あったほか、出資金は外郭団体をお取り潰しして引き揚げればかなりの部分帰ってくるだろう。
 また、建てた後のランニング・コストは230億円かかっていた。
 合計で658億円となり、国や県からの補助金が計17億円弱あるとは言っても、差し引きで641億円以上もの市民の税金をかけて運営してきたこととなる。
ツリーマップ.png
 全体の割合がわかりやすいよう、ツリーマップも用意した。現時点で65%がイニシャル・コスト、35%がランニング・コストだ。今後、大規模改修が待ち構えており、おそらくランニング・コストはイニシャル・コストを大きく上回るだろう。
年度別経費投資対経常.png
 今度は、経年変化を見てみよう。

 土地・建物の購入費377億円がドーンと乗っている1993年度が飛び抜けて大きいので、全体がよくわからない。そこで、拡大してみた。
年度別経費投資対経常拡大版.png
 すると、運営していくのにかかる経常的経費は落ち着いており、消費税の増税分が上がったりしているだけだが、建物や舞台関係設備といった固定資産にかかる投資的経費が時間が経つにつれて増えていく様子が見て取れる。
年度別経費積み上げ棒グラフ.png
 そこで、もっと細かい内訳を見てみよう。相変わらず、1993年のおかげでよくわからないので、拡大してみる。
年度別経費積み上げ棒グラフ拡大版.png
 すると、管理委託料と共益部分負担金(芸術劇場の下の吹き抜け部分や周辺の空地の管理費などを、メルキュールホテルや他のテナントと按分したもの。大規模修繕費用も一定程度含まれているようだ)の合計以上に、舞台関係の音響・照明・ステージまわり機材の更新費用がかさんでいく見込みであることが見て取れる。

●芸術劇場は廃止せよ!?
 ここまで分析して思うのは、「芸術劇場は廃止したほうがいいのではないか?」という疑念だ。
 「確かにコストはかかったが、せっかく作ったのだから使わないともったいない」という気持ちで、市民のみなさんも年間4億円強の管理コストを容認してきたと思う。しかし、このまま使い続ければ、毎年4億円を上回る設備更新費と大規模改修費用を求められる。これは、まさに経済学で言う「サンクコスト」の呪縛ではないだろうか。

 福祉予算を4億円でも削れば、巡り巡って死人が出るだろう。逆に4億円を増額すれば、救える命は一人二人ではないだろう。
 一方、芸術劇場がなくても、誰も死なない。

 そもそも、芸術振興は市の中核事業ではない。傍流の事業である。欧米では芸術にパトロンがおり、その他に寄付も集めてホールや美術館を維持している。カーネギーさんが作ったカーネギー・ホール然り、多額の寄付を集めるメトロポリタン美術館然りだ。
 そして、横須賀市には、もはやパトロン気取りでお金をつぎ込む体力はない。

 ただし、「芸術劇場廃止論」と言っても、私が言うのは「解体してしまえ」という話ではない。民間に呼び掛け、あと30年くらいは使うことを条件に土地を無償で貸し出し、建物はタダで差しあげて活用してもらえばいい。手が上がらなければ、コストのかからない他用途に転用すればいい。例えば、オペラ仕様をやめて普通のステージにしただけでも維持管理コストは大幅に圧縮できるのではないか?

 とはいえ、現時点では、これまでの市債利払額と今後の大規模修繕費用と改修コストと解体費用を見積もれていない。担当課に調べて頂けそうなので、その情報が出てきた時点で後編を提供したい。

 ご意見があれば、お寄せ頂ければ幸いです。

 →表をいじりながら詳しく見たい方はTableauPublicで公開してあります。

この記事へのコメント

  • 新田尊士

    横須賀市として芸術劇場を市民の要望に沿うものとして、企画・運営する能力もなく、市民に愛されているとも言えない身分不相応な箱モノを造ってしまい、今日までダラダラと年月を重ねてきたのが実態なのではないのでしょうか。だからと言ってあの大きなお荷物をどうするのか、歌劇などほとんどやっていない、当面はその機能にかかる経費をカットするぐらいしかない。他に転用できる知恵もないのでこの程度です。それとも壊して高層住宅を建設し販売しますか。.
    2020年08月10日 18:54