小泉又次郎「理由無き解散」演説の書き起こし

 2020年も、よろしくお願いいたします。

 さて、年始に、元横須賀市長・元逓信大臣の小泉又次郎の演説をじっくりCDで聴く機会があり、さすがは国民から人気のあった大衆政治家だと感銘を受けた。
 せっかくなので、書き起こしてみた。お年玉として、みなさんに贈りたい。

小泉又次郎「理由無き解散」 1937年(昭和12年)3月
800px-Matajiro_koizumi.jpg 私は、小泉又次郎であります。

 諸君。第70回帝国議会は、突如として解散せられました。

 元来、議会の解散なるものは、予算案その他、重要なる政策に対し、政府と議会とが意見の衝突を来たしたる場合においてのみ行うべきものであって、この理由以外に解散はできぬはずである。もし、敢えて為す者あるならば、それこそ不法極まる非立憲的行為であると言わねばなりません。

 林内閣は今期議会に臨むにあたり、45日にすぎぬ審議期間の緩急を図らずして、28億7千万円にわたる総予算案ならびに追加予算案7件その他83件という、歴代の政府に未だかつて類例のない多数の法律案を提出して、我々議員に協賛を求めたのであります。我々はつとに、現下の世情時世を認識し、内外に切迫せる国家的重大問題に直面しては、真剣に挙国一致・国難打開に邁進する覚悟と決心とをもって、組閣の当初からあまり虫の好かなかった林内閣ではありましたが、何ら捉われることなく、国家本位から陰になり陽になり、これを助けて、予算案をはじめとし政府提出の重要法案48件は慎重審議を尽くして貴衆両院を通過させ、その他に衆議院を通過して貴族院において未だ議決に至らなかった法案が5件もあったのであります。いかに我々議員が日夜努力して熱誠を以て翼賛の任に当たったかは、これに照しても明らかだと信ずるのであります。
 しかるにもかかわらず、政府は議会の最終日にあたり無謀なる解散を断行したのであります。而して、その理由とするところは、「議会が国防・国民生活安定に至大の関係ある重要法案の進行を阻害したるがため、是非を国民に問うべく解散を行った」と宣言しておりますが、是、思わざるもまた甚だしいと言わなければなりません。

 何故なれば、政府は議会が重要法案の審議を妨げたと言うておりまするが、いま述べた通り、予算案その他重要法案の大部分は既に両院を通過し、残された四、五件の法案中、国民生活に重大の関係を有する国民保険法のごとき、また、国防上産業上、両方面に一日も忽せにすることのできない燃料問題たる、帝国燃料興行株式会社法案、それに関連する人造石油製造事業法案をのごとき、農村負債整理法案、センユウ法改正法律案のごときは、衆議院がすでに議了し、貴族院に送付したのであります。

 解散当日、午前10時30分、貴族院ではこれらの諸法案を今当に決定せんとせる節が、突如として「衆議院は解散、貴族院は停会」との詔勅が下り、全員唖然としておりますところ、知らなかったというのが当時の真相であります。

 「林内閣は議会開会当初から議会解散の機会を狙っておったのではないか」と言う人がありますが、あるいはそうかもしれません。果たしてそうでありとするならば、林さんはその狙いどころを誤ったお気の毒な人であろうと思われます。
 もし、貴族院で右の議案が決定した後において解散されたならば、重要法案の大部分が成立して、それが悉く国家民人の利益幸福となったのであります。しかるに、その時期の狙いどころが外れたため、その重要法案を残らず取り逃がしてしまったのであります。取り逃がした林さんは、ただ世間から笑われるくらいで済むでありましょうが、国利民福を取り逃された9000万の民衆は泣いても泣ききれないではありませんか。

 かくのごとき、時事極めて明白なるにもかかわらず、不合理なる解散を敢えてし、その責任を政党に転嫁せんとするに至っては、その矛盾・撞着に驚かざるを得ないのであります。
 もし夫れ、重要法案の進行を阻止し、事務を醜態せしめたる者ありとするならば、それは民政党の関知するところではない。また、朝野協力を強調しながら、祖国一致を妨げる者ありとするならば、民政党の関知するところではない。林内閣が全部その責任を負うべきものである、と断言してはばからないのであります。

 かく論じ来たると、世間でこの度の解散を評し、「武士にあるまじき闇討ち解散」「無残、食い逃げ内閣」と叫ぶのも、あながち無理ではない。否、むしろ卑近ながら、至極一般にわかりやすい適評であると思うのであります。

 しかしながら、矢は既に弦を離れたのである。戦いは既にたけなわんとするのであります。
我々は国防、産業、外政のサンゼン(三善?燦然?)政策をひっさげ、セイカンジョウ、チクセイ(血誠?)を以て正々堂々と林内閣と雌雄を争わんとするものであります。それがためには、あくまで言論・文章によって国民各位に訴え、厳正公平なる審判を待つ次第であります。

 ただ、遺憾に堪えませんのは、レコードの時間の制限がありますので、政策の内容を発表することのできぬ点です。
 各位、乞い願わくば、これを諒とせられんことを。
 さようなら。

以上

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