上場企業の基準を、議会に当てはめろ!

YUKA150701498601_TP_V.jpg■上場企業の基準「コーポレートガバナンス・コード」って何?
 「上場企業」という言葉はご存じかと思う。証券市場で一般に株を売り買いできる会社のことだ。
 株を売り買いするには、経営の情報がきちんと公平に提供されていなくてはならない。経営状態が全く分からない会社の株を買う人などいないし、本当かどうかわからない情報を元に株を買うのはリスクが大きい。中の人しか知らない情報で売り買いされると一般の株主は不利となる。だから、上場企業は外部監査も受けるほか、粉飾決算やインサイダー取引などは厳しく罰せられることになっている。
※画像提供:ぱくたそ

 こうした上場企業は、日本では東証やマザーズやJASDAQなどに上場している。これらの取引所を統括しているのが日本取引所グループ(以下JPX)だ。このJPXでは、全ての上場企業に企業統治(コーポレートガバナンス)の基本原則に従うことを求めている。東証一部二部には、より細かい原則も求めている。これらを「コーポレートガバナンス・コード」と呼び、日本におけるコーポレートガバナンスの事実上の標準(デファクト・スタンダード)となっている。

■企業のルールを市町村に当てはめる!?
 これを、市町村に当てはめてみようと思った。

 なぜ、私はそんなことを考えたのか?
 私は、卒業後にベンチャー企業に就職し、在職中に上場して持ち株会やストックオプションなども経験したので株について肌で学ぶことができた。また、その後はNGO活動を経てコンサル会社で企業経営を学びながら上場企業を支援した。
 企業・NPO・行政の3つのセクターにまたがってキャリアを積んできたので、比べて見る癖がついている。そして、この見方は、日本で最も遅れた業界の一つと言っていい議会業界には有益ではないかと考えている。

 さて、市町村には上場という仕組みがない。が、抱える従業員数から見ても、扱う金額から見ても、市町村は上場企業並みの組織と言っていいだろう。とりわけ、横須賀市役所は従業員数3000人超で連結売上3000億円を超える東証一部クラスの組織だ。
 ただし、市町村が企業と違う点は、上場せずとも最初から経営情報が公開されていることだ。行政は、市民や企業から集めた税金で運営されている。いわば、全国民が株主だ。だから、全国民が一定の経営情報を手に入れられる仕組みとなっており、もともと透明性は高い。逆に言えば、市町村は既に上場しているのと一緒だ。

 じゃあ、市町村に当てはめる必要はないのか?
 いや。アメリカ駐留軍が残していった地方自治法という制度は、戦前に比べるとなかなか良くできていて、市役所本体にガバナンスは利いている。権力の分散化や複数チェックも少なくとも制度上は利いている。ただし、問題は市長以下の市役所を監督する議会のガバナンスだと思うのだ。アメリカも、日本がここまで民主主義が根付かない国だとは想定しなかったようだ。

 かつては企業も、かつては日本型の株式持ち合いで取締役を送り合うなどといった慣行もあって、馴れ合い的な文化があったと思う。しかし、その後は社外取締役を増加させたり監査を強化したりと、取締役会のガバナンスは少なくとも形式面ではかなり改善したのではないか。
 一方、市町村の議会は、少なくとも制度面ではガバナンスに疑問が残るため、現在のままでは「馴れ合い」「お手盛り」と見られてしまいかねない。
 そこで、先行した民間企業に倣うことで、議会業界を改革するヒントが得られるのではないかと考えたのだ。

■超訳版:議会向けコーポレートガバナンス・コード
 以下、コーポレートガバナンス・コード(2018年6月版)の基本原則を、市町村向けにわかりやすく「超訳」版で置き換えてみたい。

1.【株主の権利・平等性の確保】
 上場会社は、株主の権利が実質的に確保されるよう適切な対応を行うとともに、株主がその権利を適切に行使することができる環境の整備を行うべきである。
 また、上場会社は、株主の実質的な平等性を確保すべきである。
 少数株主や外国人株主については、株主の権利の実質的な確保、権利行使に係る環境や実質的な平等性の確保に課題や懸念が生じやすい面があることから、十分に配慮を行うべきである。

→1.【市民の権利・平等性の確保】
 市役所は、市民の権利が本当に守られるよう、ちゃんと対応しなさいよ。あと、「あなたの権利は保証されてますから」と、ただ言うだけじゃなく、実際に市民がその権利をちゃんと活用できるように、わかりやすく伝えるなど環境整備もしなさいよ。
 それから、市役所は、市民をえこひいきしないで、実際ベースで公平になるようにしなきゃダメですよ。
 特に、障害者・性的マイノリティ・外国人など少数派の人たちは、正直言って市民の権利と言ったって、伝えたつもりでも字が読めなかったり、言うのがはばかられたりするもんなんですよ。ちゃんと気を遣ってあげて、フランクに言える場を確保して差し上げたり、わかりやすい説明したり、本当の意味で平等の扱いになるようにしてくださいね。


2.【株主以外のステークホルダーとの適切な協働】
 上場会社は、会社の持続的な成長と中長期的な企業価値の創出は、従業員、顧客、取引先、債権者、地域社会をはじめとする様々なステークホルダーによるリソースの提供や貢献の結果であることを十分に認識し、これらのステークホルダーとの適切な協働に努めるべきである。
 取締役会・経営陣は、これらのステークホルダーの権利・立場や健全な事業活動倫理を尊重する企業文化・風土の醸成に向けてリーダーシップを発揮すべきである。

→2.【市民以外の関係者との適切な協働】
 市役所には、市職員、保育園・学校・介護施設などの利用者、納入業者・委託業者、納税者、地域社会などなど、様々な関係者がいますよね。こういった人々のおかげで、横須賀市は住みやすい街として維持されているんですよ。市長と議員だけじゃ何もできないでしょ?
 だから、そのあたりをちゃんとわかったうえで、いい関係を築いていきましょうね。
 特に市議会議員や市長は、関係者のみなさんが、これからもずっと活き活きと活動していけるように、お役所的な空気を変えていきましょうね。


3.【適切な情報開示と透明性の確保】
 上場会社は、会社の財政状態・経営成績等の財務情報や、経営戦略・経営課題、リスクやガバナンスに係る情報等の非財務情報について、法令に基づく開示を適切に行うとともに、法令に基づく開示以外の情報提供にも主体的に取り組むべきである。
 その際、取締役会は、開示・提供される情報が株主との間で建設的な対話を行う上での基盤となることも踏まえ、そうした情報(とりわけ非財務情報)が、正確で利用者にとって分かりやすく、情報として有用性の高いものとなるようにすべきである。

→3.【適切な情報開示と透明性の確保】
 市役所は、市の財政がいまどうなっているか、今後どんな課題に取り組まなければならないのか、これからどんな問題が起こる可能性があるのか、きちんと市民に知らせましょうね。地方自治法で決まっている情報を出すだけじゃなく、市民の関心事に応えられるように、積極的に情報を出していきましょうね。
 特に、そういう情報をもとに市民と議会で今後どうするか話し合っていくことになるわけだから、特に議会は、数字や字面だけ報告すればいいというものではなくて、その背景なんかも、市民に丁寧にわかりやすく伝えなきゃダメだよね。


4.【取締役会等の責務】
 上場会社の取締役会は、株主に対する受託者責任・説明責任を踏まえ、会社の持続的成長と中長期的な企業価値の向上を促し、収益力・資本効率等の改善を図るべく、
(1) 企業戦略等の大きな方向性を示すこと
(2) 経営陣幹部による適切なリスクテイクを支える環境整備を行うこと
(3) 独立した客観的な立場から、経営陣(執行役及びいわゆる執行役員を含む)・取締役に対する実効性の高い監督を行うこと
をはじめとする役割・責務を適切に果たすべきである。
 こうした役割・責務は、監査役会設置会社(その役割・責務の一部は監査役及び監査役会が担うこととなる)、指名委員会等設置会社、監査等委員会設置会社など、いずれの機関設計を採用する場合にも、等しく適切に果たされるべきである。

→4.【議会の責務】
 地方議会は、「票になるかどうか」という目先の人気取りばっかりじゃだめだよね。市民から選挙で選ばれた、という負託をしっかり自覚して、横須賀市の将来を見据えて、長い目で見て横須賀市が発展するようにしなきゃいけない。だから、
(1) 長期の「総合計画」で、市の将来のビジョンを示すこと。
(2) 市長が、事業廃止や公共施設リストラみたいな、目先の票を減らすようなことであっても腹を決めて取り組もうとするときには、しっかり支えてあげること。
(3) 「市長派」「反市長派」だとか政党のしがらみだとか、そんなことは関係なく、是々非々で市長や部長以下の職員をきちんと監督する役割を果たすこと。
 こうした役割は、どんなまちでも一緒だよ。大きな市だろうが、小さな村だろうが。専業で議員ができるだけの議員報酬をもらってようが、報酬が安すぎて議員のなり手不足に苦しんでいようが。監査委員を議会から出していようがいまいが。包括外部監査を法律上やらなきゃいけない市だろうが、不要な町村だろうが。なにしろ、そんなの市民目線では関係ないからね。ちゃんと仕事してくれよ。


5.【株主との対話】
 上場会社は、その持続的な成長と中長期的な企業価値の向上に資するため、株主総会の場以外においても、株主との間で建設的な対話を行うべきである。
 経営陣幹部・取締役(社外取締役を含む)は、こうした対話を通じて株主の声に耳を傾け、その関心・懸念に正当な関心を払うとともに、自らの経営方針を株主に分かりやすい形で明確に説明しその理解を得る努力を行い、株主を含むステークホルダーの立場に関するバランスのとれた理解と、そうした理解を踏まえた適切な対応に努めるべきである。

→5.【市民との対話】
 議会は、選挙の時だけ市民の声を聴けばいいってもんじゃないよ。選挙で選ばれたら、あとは何やってもいいわけじゃないよ。横須賀市の将来を考えたら、選挙が終わってからも、市民の声をしっかり聞いて仕事しなきゃね。
 議員は、いろいろな場で市民の声に耳を傾け、市民が何を心配しているのか、市民が何を期待しているのか、きちんと理解しなきゃいけない。そして、横須賀市をどんなまちにしたいのか、市民に丁寧に説明してわかって頂けるよう努力しないとね。そして、市民を含む市の関係者に対してバランスのいい政策づくりをしていかなきゃいけない。


 ……どうでしょう?
 コーポレートガバナンス・コード、なかなかいいこと言ってますよね?

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