【会派視察報告:前編】教育先進都市・戸田市にあって横須賀市にないもの

TodaTogasaki.jpg■連日の視察となった理由
 先週に引き続き、11/5~11/7の行程で会派で視察に向かった。
 議会日程の合間でメンバーの日程が合う頃で調整するとこの時期となったため、どうしても視察が集中する。視察報告を書くことも含め、なかなか忙しいが、今後の政策のための有意義な仕込みの時間だと考えている。

 今回の視察では、埼玉県戸田市で「教育改革」について、福岡県朝倉市で「コミュニティバス兼スクールバス」について学んだ。団長・副団長と私は、マニフェスト大賞受賞者の事例発表の研修会に参加するため2日の行程だが、他のメンバーはもう1日、岡山市で「学童保育の公営化」について学んだ。

■戸田市に伺った背景
 横須賀市は「人口減少が止まらない!」と嘆いているが、戸田市は「人口増加が止まらない!」と嬉しい悲鳴を挙げており、その点では対照的だ。
 ただし、教育はどのまちでも重要な課題だ。だから教育先進都市・戸田市の話を加藤議員から聞いて、ぜひ知りたいと願った。

 もちろん、良い教育を施しても、まちを巣立ってしまうかもしれない。お金を注ぎ込んでも投資対効果が不明確かもしれない。しかも、効果が表れるまで10年はかかる。そして、その効果は測りにくい。
 とはいえ、全ての雛が地元から巣立ってしまうわけではない。人間には慣性があるので一定割合は残るし、教育が良ければ「自分たちの子どもも地元で産み育てよう」と考える可能性も高まるだろう。
 そして、教育こそ歯を食いしばって投資すべき最重点分野だ。
 基本的に、行政はあまり生産できない。新しい商品を世に送り出すことはない。ただただ、行政サービスを提供し、人々のくらしを支えるだけだ。そんな中、ほとんど唯一生産できる分野が、教育だ。人々の可能性を生産する、尊い事業だ。
 だからこそ、「米百俵」の逸話のように、教育は最重点事業なのだろう。

 そして、横須賀市の弱点こそ、教育だ。
 教育現場は頑張ってくださっているが、実は上がっていない。キャリア教育が民間の協力もあって突出して素晴らしいものの、他市と比較すれば、致命的にまずいところもないが特筆すべき点もないという状況ではないか。
 教育の状況を表す指標は、難しい。わかりやすいものではテストの成績だが、これは低めだ。
 →2019 年度横須賀市立小・中学校学習状況調査結果
 ただし、提供する教育の質が低いわけではなく、おそらくは所得階層が低めなのと連動して低い。ただし例年、中学3年生になるとテストの点が上がる傾向がある。点を取るための受験対策の効果は上がっているということなのだろう。
 私にとって重要な指標の一つが、学習塾だ。この土地では当たり前のようだが、私が生まれた福島県の田舎町の感覚から言えば、かなりの割合の生徒が塾に通っている。そして、これは悪い傾向かもしれない。それは、学校の授業では十分ではないということの裏返しだからだ。単に成績を上げるために、人生の大切な時期の重要な時間をお金とともに費やしているということでもある。もちろん、次の良い教育を受けるための一時的なブースター的な投資ならば別にとやかく言うことではないのだが、私はこぞって塾に行く状況に疑問も持っている。特に、夜の22時近くまで塾帰りの中学生が歩いているのを見て驚いている。生活習慣が乱れて逆効果ではないか。欧州には基本的に学習塾というものがないそうで、私もそのほうがいいと思っている。もはや「科挙」の時代ではない。

 さて、本市の教育の最大の問題点は、時代の変化に対応していない点だ。これは本市だけではないが、気づいたまちは既に動いている。
 かねて私は山田昌弘氏が『希望格差社会』で説いた「日本型パイプライン・システムの崩壊」論には同感してきた。あたかも、製品がパイプラインを通って送り出されていくように、子どもたちをその特性に応じて社会の様々な位置に送り出す仕組み。小中学校で五段階評価をつけ、内申をつけ、それぞれの生徒の「水準」に合った高校・大学へ振り分け、相応の職場へ配置する人材供給システム。
 これは、社会の発展が一方向の「先進国に追いつき追い越せ」局面では有効に機能した。特に、製造業に適した人材を送り出すのにうってつけだった。しかし、いったん成熟して少なくとも経済面では先進国となった日本において、もはや必要ではないはずの仕組みだ。
 パイプライン・システムから生まれる人材を、21世紀はもはや必要としていない。本来なら日本は、先進国として高い付加価値を生まなければいけないのだが、高付加価値を生める仕組みは、もはや自動車業界ぐらいにしか残っていない。その他の業界は、パイプライン・システム型人材では付加価値を生めなくなっている。AIの時代になれば、なおのこと、その傾向は加速する。
 だから、これからの社会を創れる人材を輩出しなければならない。しかし、過去の習い性で、漫然と従来型教育を続けている。そんな、先読みのできないまちの一つが横須賀市だ。もちろん、目覚めている教師もいるが、教育委員会の総体としては、そう指摘するほかない。

 要するに、「21世紀型スキル」の話である。
 これを先読みして始めているまちはいくつもある。過去に視察した荒川区も同様だ。

 本市が思い切って舵を切れないのは、最終的には市長が先見性のある教育委員を選任せず、議会も「その人じゃだめだ」とNoを突き付けることなく唯々諾々と同意してきてしまったのが原因と言えるだろう。
 つまり、私も偉そうに言っているが、結果として何も変えられなかったわけで、断罪に値するとの自覚はある。しかし、変えたいとは考えている。だから、戸田市に伺った。

■横須賀市への持ち帰り
 以下、戸田市での学びの中から本市に持ち帰ることのできた洞察を並べたい。

●戸田市は財政が大変な中でも投資している
 改めて戸田市と本市を比較すれば、本市のほうが教育投資をしやすい環境にあると言っていい。
 本市では、学校建設が既に一段落していて、逆に学校を統廃合する時期に入っている。耐震補強も頑張って済ませ、全普通教室へのエアコン設置もやり遂げた。つまり、基礎的な投資が不要で、教育の中身の投資に移ることができる。
 一方の戸田市は、生徒数が急増していて、学校現場の最大の悩みは教室が足りないことだ。追加の学校建設が急務であり、ご他聞に漏れず設備を共用化できる小中一貫校での建設を予定しているという。もちろん、戸田市は埼玉県で財政状況が最も良いまちだ。とはいえ、学校建設が財政に与える影響の大きさは、ベビーブームで人口急増の中、神奈川県と大阪府が学校建設に追われて中学校給食にまで手が回らず実施率ワースト1位・2位となったことからも伺える。
 しかし、戸田市はそんな中でも、「米百俵」で教育にどんどん投資をしている。
 これは横須賀市が見習わなければならない最大の点だ。

●教育長の所信表明と議会質疑を経ての選任
 教育委員の任命は市長がするが、それに同意するかどうか、最終的には議会が決める制度だ。
 横須賀市の教育委員の選び方はこうだ。
 教育委員の任期が切れそうになると、市長から教育委員候補者の経歴書が配られて、内示される。横須賀市議会では、その経歴書を見て判断するほかない。内々で特に異論が出ないようならば、市長は議会の最終日に提案し、採決される。ちなみに私の知る限り、任命しなかったことはない。
 このやり方では判断材料が乏しいので、加藤まさみち議員の提案で市長提案時に提案理由が市長から述べられるようにはなった。また、過去に私と藤野議員と大村議員は「なぜ教育委員にふさわしいのか?」と質疑をしたこともある。ただし、横須賀市議会の場合は候補者本人が姿を見せず、答弁するのはあくまで市長となっていた。
 戸田市は違う。戸ヶ崎教育長は、選任にあたって議会で所信表明を実施し、それに対する議会質疑の機会もあって、その後に選任されたという。
 これは戸田市だけではなかった。地方教育行政法の改正による新・教育長制度の導入に伴って所信表明を実施した市町村が多いことを戸ヶ崎教育長に教えて頂いたので、早速調べたところ、文部科学省による全国自治体を対象とした調査結果があった。これによると、4分の1にあたる395自治体が所信表明を受けて選んでいる。
 かつて先進議会だった横須賀市議会としては、もう一度、選任の手法を見直す時期に来ているのだろう。

●研修の個別最適化を
 一般的に教員向け研修は、1年目ではこの研修、2年目ではこの研修、という形式らしい。戸田市では、既に実施しているのか教育長の今後の構想なのかはわからなかったが、教員ごとに必要な研修を受けさせるらしい。
 教育ほど教員によって品質にバラツキのある商品はない。教員も上手な人から出来の悪い人まで様々だ。そして、教育品質は教員の経験や年齢と実は比例せず、かなり属人性が高いと見ている。だから、立派な教員に必要のない研修を受けさせるのは時間のムダとなる。一方、出来の悪い教員は、研修によってスター教師になることはないが、一定の品質は確保できる。私も、出来の悪い会社員だったが、研修によってある程度の質までは向上した。
 この点、横須賀市の研修がどうか、確認したい。

●教育委員による提案
 戸田市では、教育委員が教育委員会定例会議にて教育政策に関する提案をするらしい。しかし、横須賀市ではそのようなことはない。正確には、ほとんどない。
 教育委員会とは執行機関である。執行機関とは、取締役会や議会みたいな監督機関ではないので、何をやるか決めるところである。だったら、横須賀市の教育で何をやるか、教育委員会においてどんどん提案すればいい。ちなみに、横須賀市議会は基本的にはチェック機関とはいえ、とりわけ教育問題については様々な提案が活発に行われている。
 しかし、教育委員会定例会議では、御前会議のような雰囲気で、自分たちが執行者なのだという主体性を微塵も感じさせないお公家集団が事務局職員に質問や要望をするばかりに見える。少なくとも9年間、議員として藤野・大村・小室・小幡といった熱心な面々に交じってときどき傍聴しているが、教育委員からの議題の提案が行われたのは、先日退任された小柳委員だけだと思う。提案内容も含め、立派な教育委員だったと感じている。市長が新任の人に代えたこと、それに自分が同意したことを今も悔いている。

●「手段から入れ。手段の目的化で何が悪い」
 そう、戸ヶ崎教育長は主張されていた。潔いと思った。教育へのICT導入について、「十分に活用できる体制が整っていない」とか「教育の本質がわかる教師がICTを本当に使いこなせるのだ」とか言っている前にどんどんやってしまえということと解釈した。

●「困ってない先生が、困った先生」
 このようにも、戸ヶ崎教育長は主張されていた。自分自身に何か課題があって改善しなければならない、などとは夢にも思わず現状の自分の教育の質に満足している教師ほど、教育品質の低い教師が多い、と解釈した。これは、教師だけでなく我々の業界にも同じようなことが言えるが、言い得て妙だと思った。

●「全国ICT教育首長協議会」のパンフレット
 この団体の発行するパンフレットが使いやすいと教えて頂いた。
→全国ICT教育首長協議会発行『首長向けパンフレット』
→全国ICT教育首長協議会発行『担当者向けパンフレット』
 確かに、具体的でわかりやすい。横須賀市の担当者がこれを知っているか確認したい。

●部活Yes/Noの激論バトルを1年間
 戸田市では、2017年10月に戸田市部活動の在り方検討委員会を立ち上げ、PTA・校長・顧問などが徹底的に議論した。
 その結果、部活動の日数や時間を制限することとなった。アンケート調査もして、1年間みっちり議論した結果なので、部活大好き熱血顧問や保護者も納得しているという。

●教育のプロの採用
 市の教育委員会事務局職員は、基本的に他の組織からの出向者ばかりで構成されている。主に2つの系統の職員がいる。
 第一に、市役所からの出向者。市の採用試験を受けて、総合職として採用された人々なので、当然プロではない。多くが管理系を担当する。
 第二に、県からの出向者。ただし、県庁ではなく教員だ。教壇に立っていたが、能力が高かったと見えて指導主事として市全体の各教科や支援教育やスポーツなどを見渡して仕事をする。学校に戻ると校長や教頭になる人が多い印象。多くが、教育内容にかかわる部署に配置される。
 ところで、戸田市は教育委員会事務局に専属の職員を採用している。これは本市でも検討してはどうかと思う。

●教育委員会専属の弁護士採用
 厚木市と同様に、戸田市では任期付専門職として弁護士を雇っている。
 戸田市は、教育のために良いことなら何でもやっている印象だ。

 以上で、戸田市視察から本市に持ち帰るものの報告を終える。

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