10日は三条市に伺い、マイナンバーカードを活用した独自サービスについて伺った。
■なぜ三条市に伺ったのか? の前に韓国の話
私は、2015年と2018年の2回、韓国に電子行政について視察している。ちなみに、私費視察なので報告書は書いていない。以下、ナビゲーターを務めたコンサルタントの廉宗淳氏に習ったことを大雑把に書く。
1997年のアジア通貨危機で財政破綻した韓国は、IMFの管理下に置かれて公務員数を大幅に減らされた。人手が足りず、どう頑張っても行政サービスを提供できないことが明らかだったため、頑張るのではなくIT化により無人化や省力化を図った。
その一つとして、韓国は日本の外郭団体をお手本に、全国の市町村共通の基幹システムを導入した。ちなみに、日本のシステムは金ばかりかけて実際には使えなかったので導入はされなかったのだが、韓国政府はてっきり日本はやり遂げているものと思って構築した。
日本では市町村それぞれにバラバラなシステムを組んで、わざわざ非効率にすることでITベンダーを儲けさせている間に、韓国はこうしたシステムを発展させていつの間にか世界一の電子政府の国となっていた。日本に先んじて国民背番号制度を敷き、マイナンバーにより非常に効率的で便利な行政サービスを実現している。
具体的には、住民票をマイナンバーで自宅のプリンタで印刷できるようにした後、そもそも住民票を基本的に不要とした。市町村間でシステムは共通化し、基本的にはスマホ上でたいがいの行政への申請などを済ませることができるようになった。病院のカルテも薬局への処方箋も電子化し、共通化した。法人クレジットカードでの買い物は、所得税控除の申告も不要にした。このように、ありとあらゆることを電子化して、超効率的な国になった。
そしてLG系やサムスン系などのITベンダーは、国内で作り上げた電子政府パッケージを引っ下げて海外に売り歩き、外貨を獲得した。
災い転じて力に変えた、韓国の恨(ハン)からの再起の物語だ。
■なぜ三条市に伺ったのか? の前に日本の話。
翻って日本は、鳴り物入りで巨費を投じて導入したマイナンバーもカードも、いま一つ活用されていない。
かく言う私も、あれだけ電子行政の推進を提言しておきながら、現在のマイナンバーカードにはメリットを感じていないため取得していない。
だいたい、確定申告ひとつとっても、せっかくネット上でデータで作成した申告書なのに、マイナンバーを書かせて紙で提出なんて何のためのマイナンバーなのか? マイナンバーでログインして、そこに確定申告書データを添付するのが業務効率化としては正しい。そこにわざわざICカードリーダーを使わせようとするから、バカらしいので結局は紙提出することになる。
こんな当たり前のことができないマイナンバーは世界の恥さらしだと思う。
そんなわけで、使えないマイナンバーには期待していない。そして、そんなマイナンバーのカードにも期待していない。私と同様に、取得する必要性を感じていない人が大多数だからカードも普及しないのではないか。メリットがあれば、高齢者でもSuica・Pasmoや○○Payなどのスマホ決済を使う人は多い。
そもそも、マイナンバーカードがなくても、既に全ての国民に背番号はふられており、カードをかざさなくても個人認証さえできればスマホやPCで様々なサービスを提供すればいい。そうでなければ、何のためのマイナンバーなのか疑問だ。しかし、そうはなっていない。
■閑話休題。さて、なぜ三条市に伺ったのか?
長い前置きをようやく終えて、ここから視察の話。
国の無策を嘆いていても仕方がないので、横須賀市でマイナンバーとカードを活用して何らかの業務改善ができないだろうか。
とりわけ、三条市ではカードを使って様々な便利サービスを走らせているようだ。アイディアを借用してコストをかけずにマネできれば、こんないいことはない。
そんな問題意識で三条市に伺った。
■三条市の取り組み概要
三条市には、総務省の審議会委員なども歴任する情報管理課ひとすじ30年選手の、その業界では有名な名物課長がいらっしゃって、わざわざご自身で視察対応をして下さった。
三条市ではマイナンバーカードを使って下記の独自サービスを提供している。
(1)証明書のコンビニ交付
(三条市が道を切り拓いて全国に普及。2003年~)
(2)窓口交付に申請書の記載が要らない仕組み
(お年寄りも窓口職員も、いちいち書いたり説明したり不要)
(3)図書カード代わり
(なんと初期経費約80万円)
(4)避難所の入退所受付
(洪水時に避難者が殺到した教訓から導入。避難者カード記入に時間がかかったのと、情報が不十分で個人特定に使えなかったのと、個人特定に時間がかかった問題を解消できる。幸い、未活用)
(5)選挙の入場券代わり
(本人確認不要。期日前にも対応。ちなみにリース切れPCを活用し、校舎から体育館まで100mLANケーブルを這わせて対応。なので、ネット環境の構築も不要)
(6)職員・学校教員の出退勤管理
(自前でシステム組んだ。本庁舎等以外は、リース切れパソコンを活用)
(7)お店などでカードを出すと優遇サービス
(システムやアプリ使わずアナログ)
■横須賀市への持ち帰り
三条市の事例から本市に持ち帰ることのできる洞察は大きく5つある。
1.マイナンバーは期待薄かもしれない
ちゃぶ台返しのような話だが、やっぱりマイナンバーカードについては、本市ではしばらく様子見でもいいかもしれないと感じた。これは、論理的ではなく、なんとなくそんな気がしただけだ。
せっかく人員とお金を注ぎこんでも、住民基本台帳カードと同様に尻すぼみに終わる可能性もある。メリットとデメリットを天秤にかければ、ここはフロントランナーに追随するのではなく、周回遅れでもいいのかもしれない。
2.とはいえ、三条市並みのことはマネしよう
周回遅れでいいとはいえ、便利で安くあがるところには適用すれば良い。その点、三条市は簡単に導入できて、効果も上がるものばかり取り組んでいる。周回遅れのいいところは、産みの苦しみが要らないことだ。徹底的にパクればいい。
とりわけ、(2)窓口交付に申請書の記載が要らない仕組みは、はっきり言ってコンビニ交付よりお年寄りには喜ばれるだろう。コンビニ交付は、使い方を自分で何とかできる人向けのサービスだ。使い方を教えてくれるコンビニ店員も中にはいるだろうが、基本的には店員の仕事ではない。
また、職員と学校教員の勤怠管理にはうってつけだ。とりわけ、本市の教員は勤怠管理をExcel表にわざわざ入力するという面倒な仕組みで、一週間分まとめて思い出しながら入力する教員すらいる体たらくだ。その教員らが悪いのではない。人間というものはそういう生き物なので、カードをカードリーダーにピッと通すぐらいの簡便さじゃないと続かない。
余談だが、三条市は職員の残業時間を半分に減らしたらしいが、技術ではなく管理職からの声かけが効いたらしい。技術でできることは技術で、知恵でできることは知恵で、ということか。
3.複数のシステムを一本化してしまおう
意図していなかったが、三条市での最大の学びはシステムの合理化だった。
本来ならば、市町村の仕事というものは全国ほぼ一律なのだから、韓国のように国が共通システムを開発して市町村に使わせるのが最も効率的だ。また、住民基本台帳系・税務系・福祉系など各システム間の連携もとった状態で提供すれば良い。
しかし、そうなってはいない。だから、市町村は各システムの構築と管理を様々なITベンダーに委託することになる。
この際、リスクや受注機会の分散化を考えるあまり、システムごとに別々のITベンダーに委託するとコスト増となり、連携するにもまたコストがかかるようだ。
どうせ、ITベンダーの市内発注は少ないはずなので、受注機会の分散化は考えなくとも良い。そして、リスク分散も、冷静に考えれば不要だ。システムを構築したら一蓮托生で、そのシステムをダウンしないように保守して使うほかないのだ。
困難はあるだろうが、システムの発注一本化を研究してみたい。
4.他市町村とシステムを共用化してしまおう
もっと抜本的にコストを削減する方法として、三条市は他の市町村とシステムの共同化をしている。いわゆる広域連携だ。
共同化しているのは10システムに及ぶ。大半は近隣市町村とだが、遠くは長崎県のシステムを導入していたりする。
これは、三条市はもちろんのこと、人口数百人の村には涙が出るほど助かることだろう。最も多くの13市町村で共同化しているシステムは、86%ものコスト削減につながっているという。
さっそく本市への適用可能性について調査してみたい。
5.IT系職員は異動させるな!?
情報技術は専門性が高い。せっかく知見を蓄えた職員を異動させてしまうと、また勉強させなければいけない。勉強している間にも、業務はしなければいけない。そして、非効率的な判断をしてしまえば、ムダをたれ流し続けることになる。
であれば、優秀な30年選手がいる三条市のように、専門家を育てるのは有意義なのではないか。三条市には、他にも10年以上の選手が2名いるという。
ただし、この点については私たち議会には人事権がないため、学んだものの活かしようはない。人事課に「現業職員以外にも専門職は必要なんじゃないのか?」と「愚痴」だけ言いたい。
以上で、今回の視察報告を終える。
この記事へのコメント