選挙は、このまちのオーナー・株主である市民が、代理人として取締役を送り込む株主総会にあたる。今回の株主総会で、オーナーはどんな意向を示したのか? 前回の選挙時にも同じような分析をしたが、同様にまとめてみる。
→前回・市議選2015の投票結果分析
1.投票率の推移
まず、投票率は下がった。-1.4%の微減で食い止めた前回と比べると、-3.8%は大幅下落と言っていい。
なぜ、投票率が下がったのか。
投票日当日は晴れていた。前回の衆院選のような荒天などではない。選挙期間中も晴れた日が多かったし、期日前投票も48,411人と有権者全体の14.26%にあたり、前回以上に好調だった。ちなみに、期日前投票は投票者全体の33%となり、ちょうど3人に1人が期日前投票だった。多くの人が、選挙期間前に実際には投票先を決めているのかもしれない。いずれにしても、期日前投票の増加傾向は続くのではないか。
天候のせいではないとすれば、「投票に本当は行きたいんだけど、この天気じゃ行かれない」のではなく、そもそも投票しようと思う人が減ったのだ。これは、市長選の対立が無くなったことも影響しているかもしれない。
前回は、政策面での争点が本当ならばいくつもあった。しかし、あまり着目されず、吉田市長派V.S.反市長派という構図が、ある意味で争点になっていた。しかし、それすら目立った争点ではなかった。そして今回は、政策面でも激しい対立を生んでいる争点はない。加えて、反上地市長派といった目立った勢力がいるわけでもない。横須賀市政の落ち着いた政治状況が、有権者の関心を遠ざけてしまっただろうか?
いや、投票率の低下は全国的な傾向だ。横須賀市固有の要因もある程度は影響しているだろうが、全国的な政治離れと軌を一にしていると見るべきだろう。とはいえ、投票率は市町村ごとに全く異なっており、全国的な意識低下を上回る成果をあげられていないだけの話だ。横須賀市独自に公民教育をしっかりと行う必要性がある。これは民主主義の学校たる地方政治の主役、議会の仕事だろう。今回の選挙の最大の宿題はここだ。
2.得票の分析
次に、前回との得票の比較から見えてくるものはないか、考えてみたい。
得票増Top5
まず、最も票を伸ばした現職&後継を見てみよう。
No.1 渡辺光一 +1,077 (23位→6位)
No.2 青木秀介 +1,008 (38位→16位)
No.3 加藤まさみち +828 (16位→5位)
No.4 松岡かずゆき +699 (35位→17位)
No.5 工藤昭四郎 +690 (44位落選→37位)
上位4人が自民党公認だ。とりわけ、青木秀介議員は前回から22位、松岡議員は前回から18位、渡辺議員は前回から17位、加藤まさみち議員は前回から11位分、順位を上げている。工藤議員は前回の雪辱を晴らした。
さまざまな情報から勘案すると、「政策や演説やイメージなどよりも、地元をしっかりとまわって地元の面倒をみてくれる議員がいい議員」と考える市民が多いのだろう。
得票減Top5
逆に、最も票を減らした現職&後継は次の通りの結果となった。
No.1 井口一彦 -1,459 (29位→43位落選)
No.2 小林のぶゆき -1,109 (7位→23位))
No.3 川本伸 -853後継 (10位→24位)
No.4 井坂なおし -835 (5位→9位)
No.5 南将美 -828 (9位→22位)
前回の得票増Top5入りした現職&後継のうち、No.1の井坂議員、No.3の小林、No.4の南議員が、一転して得票減Top5にランクインしているのが印象的だ。
井口氏は、票を伸ばした上位4人と同じ自民党だが、同じ党でも明暗が分かれた。理由は知らない。
小林については、最も票を減らした現職議員となった。前回、最も票を伸ばした現職議員だっただけに対照的だ。前回の躍進の要因の一つとして、駅頭浮動票型の岩崎絵美前市議の勇退の影響があったと4年前には考えていた。ところで今回は、同じく駅頭浮動票型の若手男性らに票を奪われた可能性は高い。とはいえ、本人の活動がきちんと有権者に響いていれば奪われることはなかったはずで、慢心と怠慢とのそしりは免れないだろう。また、ヘイトスピーチの連中の「別目的のために選挙を利用する」というアイディアを借用して、選挙期間中に演説で公民教育をしながら「小林に投票しなくてもいいから、選挙には行ってください」と訴えてきた。その結果、見事に票は逃げ、一方で投票率低下も食い止められなかった。大失敗だ。
政党別に見るとどうか。
自民党
自民党は後継1名を含む12名中、現職1名が落選。とはいえ、前回は自民党籍ではなかった加藤まさみち議員と伊東議員後継の大貫議員に加え、補選組の田中議員も加え、合計43,867票を集めている。党としては前回から7,498票を積み増しており、堅調と言っていい。
田中洋次郎 6,392 1位 ―
青木てつまさ 5,326 3位 +547
加藤まさみち 4,330 5位 +828
渡辺光一 4,272 6位 +1,077
田辺あきひと 3,727 10位 -24
青木秀介 3,312 16位 +1,008
松岡かずゆき 3,291 17位 +699
南将美 3,101 22位 -828
大貫次郎 2,946 25位 +188(後継)
大野忠之 2,937 26位 -208
西郷むねのり 2,683 33位 -722
井口一彦 1,550 43位 -1,459
公明党
続いて公明党は、後継1名を含む7人全員が当選。合計21,902票を集めており、4月7日の亀井たかつぐ県議の得票23,159票や2017年6月25日の市議補選での白票約20,000票と見事に符合しているのが支持基盤の強固さを示しているようで興味深い。公明党全体で696票減らしているものの、前回は2,165票も減らしていたことを考えれば、踏みとどまったとも言えるだろう。
土田ひろのぶ 3,701 12位 +483
板橋まもる 3,501 15位 -134
二見英一 3,229 18位 -273
川本伸 3,024 24位 -853(後継)
関沢としゆき 2,920 29位 +196
本石篤志 2,804 30位 -90
石山みつる 2,723 31位 -25
共産党
共産党は全員が票を落とした。合計9,356票で、共産党全体では1,585票も落としている。ただし、前回2,656票も伸ばしていたことを考えれば、単に野党共闘の風が止んだだけであって基礎票に戻ったと見たほうがいい。
井坂なおし 3,729 9位 -835
ねぎしかずこ 3,121 21位 -280
大村洋子 2,506 34位 -470
立憲民主党
今回注目すべきは立憲民主党だ。逗子や横浜で吹いた立憲への風は、風が吹かないと言われる横須賀市でも順風だった。全くの新人2名で合計3,656票。しかも、当選した木下議員は2週間前まで何の活動もしておらず、公認発表される直前までFacebook上の住所は「横浜市」となっており、「立候補の住所要件を満たしているのか?」という噂すら流れていたほどだ。本人の力ではなく党の力での当選が、ここまで明快に表れた例も珍しいだろう。ただし、先に公認されていた長島氏よりも木下氏に立憲票が流れたのは、やはり本人に風を受けやすい要素があったのだろうし、本年1月に逝去された木下前議長と間違えて投票された分もあるのかもしれない。
木下義裕 2,139 39位
長島大地 1,517 44位
労働組合系
国政とは関係なく、市内の雇用減少の影響を受け続けているのが、労働組合系だろう。とはいえ、全体で794票減ったとはいっても、同じ支持基盤を持つ小林‐工藤間の票の移転以上に小林が浮動票を減らしたのが大きい。ベース系を除いた4名では375票の減であり、前回は同じメンバー&引退1名で2,367票も減らしたことを思えば投票率の下落分程度かもしれない。
なお、組合系全体で18,414票あるので、これをまとめていれば県議選で国民民主党の現職は落選せずに済んだが、立憲民主党の新人に革新色の強い組合票が流出したと見られる。
つのい基 3,872 7位 +198
高橋英昭 3,647 14位 -459
長谷川昇 3,138 20位 -123
小林のぶゆき 3,056 23位 -1,109
伊関こうじ 2,379 35位 +9
工藤昭四郎 2,322 37位 +690
吉田前市長派?!
吉田前市長派と目されていた方々は、市長選2017での政権交代後どうなったか。現職の中には票を落とした者も多いが、同じ地盤を争って登場してきた新人の影響も大きいだろう。全体としては31,218票を集めており、新人も含めれば前回より5,694票積み増しているとも言える。市長選後に前市長と距離ができた(今回の市議選で吉田氏が推薦しなかった)山本議員とはまの議員を除けば、全体では26,364票となるが6,763票を積み増している計算だ。既存の政治勢力への不満の受け皿となっていると見ることができるのではないか。
小幡 沙央里 5,990 2位 +365
永井まさと 4,746 4位 -586
竹岡力 3,760 8位 ―
加藤ゆうすけ 3,706 11位 +653(矢島後継として)
山本賢寿 3,155 19位 -614
堀遼一 2,936 27位 ―
かやまじゅん平 2,927 28位 -471
葉山なおし 2,299 38位 +107
はまのまさひろ 1,699 40位 -456
労働組合系と吉田前市長派?!の大連立
なお、今回、これら会派で言えば研政と無所属みらい系の議員らが、改選後に同じ会派を組むに至った。
→「よこすか未来会議」を結成、最大会派に 横須賀市議会(神奈川新聞2019年4月27日)
既存の国政政党への不満を抱える市民にとって、その願いを形にしていくために有意義だったのではないか。一方で、藤野議員や小室議員のような、いわばマイノリティの代弁者は無会派で活動するわけで、取り込まれず多様性は確保される。
また、不毛な「市長与党」「市長野党」的見方にとらわれた市民に対して、本来の地方政治の姿を教育する効果もあるかもしれない。
以上、市議選2019について分析した結果、前回同様だが全体的な洞察を見出すことはできなかった。ただし、個々の票の動きからいくつかのことを読み取ることができた。記録のために記事にしておく。
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