シルバー人材センターの最低賃金逃れを斬る

MinimumWage.pngチラシ29号で触れた件について、詳細をレポートする。

問題発覚の発端
2018年11月3日、私は旧知の60代男性から次のような相談を受けた。
「退職して、年金だけじゃやっていけないので、少しでも足しになればと思って、シルバー人材センターに登録して、市の駐輪場で働いています。でも、時給870円なんですよ。高齢者だと最低賃金より安くなったりするんですかね?」

ご存じのとおり神奈川県の最低賃金は現在、983円だ。
市の施設での業務であるにもかかわらず、発注先が最低賃金を守っていないとなれば大問題だ。なお、公益社団法人横須賀市シルバー人材センターは、市と資本関係はなく外郭団体ではない。ただし、市職員OBの再就職先として事実上の指定席がある、いわゆる「天下り」団体だ。市役所とは浅からぬ縁がある。
その意味で、市は「発注者」と「身内」という2つの面から、この問題に責任を負っていると言える。

現状
そこで、「株式会社横須賀市」の取締役に当たる私としては、さっそく調査を進めた。
まず、同センターの常務理事兼事務局長に問い合わせたところ、「あくまでも雇用契約の下の賃金ではなく請負契約の下の配分金であるため最低賃金制度は該当しない」旨の回答だった。この回答は予想していたが、私には違和感しかない。
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併せて、同センターが引き受けている仕事の発注元である市役所の担当部署にも聞き取りを進め、右表のとおり情報を整理した。

これらの情報を基に調査を進めた結果、大きく次の4点の問題があることがわかった。
1.「虚偽広告」疑惑
2.「偽装請負」疑惑
3.「最低賃金逃れ」疑惑
4.「民業圧迫」疑惑

以下、詳しく説明し、最後に改善提案をしたい。
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1.「虚偽広告」疑惑
同センターのホームページには「価格の目安」として「駐車場管理1時間1,133円から」と記載してある。しかし、現実には820円や870円といった額しか支払われていない。
これは、たとえ「あくまで目安」と言い張ったところで、景品表示法の優良誤認なども疑われる誇大表示もしくは虚偽広告と言えるだろう。
加えて、今回のケースでは業務開始前に金額の提示がなく、働き始めてから時給が驚くほど安いことを知ったそうだ。

2.「偽装請負」疑惑
最も根本的な問題は、偽装請負の疑いだ。
同センターのホームページでは次のように記載されている。
シルバー人材センターは、60歳以上の高年齢退職者等に「臨時的かつ短期的なもの」又は「その他の軽易な業務」に係る就業機会を提供して、高年齢者の能力の積極的な活用を図るようにし、もって高齢者の福祉の増進に資することを目的として設立

センターが地域社会の日常生活に密着した、臨時的かつ短期的なもの、又はその他の軽易な業務に係る仕事を事業所、家庭、公共団体等から、請負または委任の形式で有償で引き受け、これを会員に請負または委任の形式で提供します。そして会員はその仕事を遂行し、完成させることによって、仕事の内容と就業の実績に応じて配分金を受け取るという仕組みで運営されます。

つまり、センターと会員は請負関係であり、雇用関係にはない建前となっている。
この請負契約は、除草や選定、清掃など、随時発生して仕事の範囲が決められ、会員の裁量がある業務には該当するだろう。しかし、駐輪場管理のような、定常的に労働時間が決められていて業務遂行や休憩などの裁量もない業務は、実態として請負ではない。今回のケースでも、下記の点から専門家から「雇用関係の性質がかなり濃厚だ」との指摘を受けている。

●口頭契約で契約書も交わしておらず、同センターは「雇用ではなく請負」と証明できない。
●同センターのマニュアル等にも、「時給」や「勤務」など雇用の用語が記載されている。
●同センターの事務局長も私からの問い合わせ時に「時給」と明言していた。
●派遣先(駐輪場)で、発注者(シティサポートよこすか)の指揮命令の下、裁量なく働く労働形態は、請負とはみなされない。
●シティサポートよこすかと同センターの間の業務委託契約の内容が、包括的な請負契約ではない。時給960円および交通費の「単価契約」となっている。
厚生労働省「シルバー人材センターの適正就業ガイドライン」2016でも、「請負契約の契約金額は、人工計算(時間単価×人数)でなく、作業量で計算するものであること。」とされている。

特に重要な点は、労働法制上、請負か雇用かは契約書の形式によるのではなく、労働実態で判断されることだ。だからこそ、厚生労働省のガイドラインにも「会員が請負、委任の業務に従事する場合であっても、労務提供の形態の実態などから判断して労働者とみなされる場合があります。」と明記されている。
そして、上記の点からは、請負の下の「配分金」ではなく、雇用(アルバイト)の下の「賃金」であることが如実に示されている。

3.「最低賃金逃れ」疑惑
請負を隠れ蓑にして最低賃金未満で済ますやりかたは「最低賃金逃れ」との指弾を免れない。しかも、厚生労働省のガイドラインでも「会員が請負、委任の業務に従事する場合、最低賃金法は適用されませんが、配分金の総額を標準的な作業時間で除した額は、原則として最低賃金を下回らない水準を勘案したものとする必要があります。」と明記されている。

加えて、問題なのは、自転車等駐車場という同じ場所で一緒に働き同様の業務に従事しているにもかかわらず、シティサポートよこすかに直接雇用されている従業員と同センターから「派遣」されている人員の間には時給に100円以上の格差があることだ。業務内容に多少の差異があるとはいえ、賃金格差が認められるほどの差ではないはずだ。
何よりも、厚生労働省のガイドラインでは
「発注者の雇用する労働者と混在して業務を行うものではないこと」
「シルバー人材センターは、業務を受注することにより、他の労働者の雇用や就業の機会を浸食したり、労働条件の低下を引き起こすことがないようにしなければなりません。このため、シルバー人材センターは、会員の賃金、配分金を、原則として発注者の事業所で同種の業務を行う労働者の賃金と同水準に設定する必要があります。」
と指導している。まあ、しっかりと違反している。

4.「民業圧迫」疑惑
上記3点の論点については、情報提供者が2月4日に横須賀労働基準監督署に申告しており、調査報告待ちだ。
その他に、労基署の管轄ではないものの、重要な論点が1点ある。それは、公正な競争ではなく民業圧迫となっていることだ。

漁港区域内駐車場の業務に関しては、横須賀市の指定管理者公募に対し3者が争って、横須賀市漁港区域内駐車場指定管理者選考委員会での選考を経て、同センターが選定された。
この際の選考委員会の議事録には「人件費を大きく抑えており、評価できる」とある。しかし、この選考委員の方々も、まさかこのような「脱法行為」で人件費を浮かせているとは思わなかっただろう。「こちらは最低賃金をきちんと守って提案しているのに、不当な安価入札をされてはかなわない」と溜息を漏らしているのではないか。

また、厚生労働省のガイドラインには次のように記載されている。
「シルバー人材センターは、業務を受注することにより、同種の業務を行う民間事業者の利益を不当に害することがないようにしなければなりません。このため、シルバー人材センターは、料金を、同種の業務を行う民間事業者の価格に配慮し、著しく低い水準とならないように設定する必要があります。」
「シルバー人材センターが、業務を受注することにより、同種の業務を行う民間事業者の利益を不当に害する事態(いわゆる民業圧迫)が生じた場合、シルバー人材センターは、民間事業者との共同受注や棲み分け、受注の辞退などの必要な措置を検討しなければなりません。また、シルバー人材センターが、業務を受注することにより、他の労働者の雇用、就業機会の浸食、労働条件の低下などを引き起こす事態が生じた場合、シルバー人材センターは、料金の引き上げ、受注の辞退などの必要な措置を検討しなければなりません。」
本ガイドラインに照らせば、同センターは受注を辞退すべきだろう。

今後、市と同センターが取るべき対策について
私の狙いは、問題をあげつらうことではない。
第一に、情報提供者をはじめとした同センター会員に、差額分が補償されること。これは、労基署がちゃんとやってくれるだろう。
第二に、来年度以降、改善がなされることだ。これは、監督者である我々議員の仕事だ。

まず、同センターへの提言だ。
なにしろ、労働関係法規や厚生労働省のガイドラインに沿って、業務のありかたを見直す必要がある。
具体的に自転車場駐車場においては、引き続きパーキングコミュニティよこすかが2019年04月01日~2024年03月31日の指定管理者を務めることが決定している。そのため、今後は現在の「請負」型から、厚労省ガイドラインが提示している「派遣」型に切り替え、同センターが高齢者を雇用してパーキングコミュニティよこすかに派遣する方法があり得る。また、漁港区域内駐車場においては、これはもう受注を辞退すべきだろう。

次に、横須賀市への提言だ。
CSR(企業の社会的責任)をならい、GSR(行政府の社会的責任)を果たすべきだ。具体的には、SDGs(ゴール8・ターゲット8.5)や、川崎市等が制定する公契約条例の理念をふまえて、発注先の末端がまっとうな仕事(Decent Work)となり、支払われている賃金等が生活賃金(Living Wage)を満たすようにしなければならない。例えば、国際規格SA8000の認証を取得しているイオン株式会社の取り組みなどを参考に、サプライチェーンのモニタリングをする必要があるだろう。

おそらく、同センター側に悪気はなかっただろう。電話していてもそう感じる。ただただ、従来の業務慣行に従って漫然とやっていたのだろう。しかし、一人の会員が気づいて声を上げたことで、すでに課題は「見える化」された。「過ちては改むるに憚ること勿れ」と言う。同センターと市役所と労基署の良心を私は信じている。

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