
※写真は、中央区まちセンの地域担当職員お2人を囲んで。
地域担当職員を知ったのは、本年7月11日の「地方議会サミット」だ。大西一史・熊本市長が登壇したパネルディスカッションがあり、この中で地域担当職員の取り組みについての説明があった。その際、数多くの相談を受けて大半を解決していることを紹介すると、会場のあちこちから感嘆の声が挙がっていた。大西市長も「熊本市政最大のヒット商品」と議会で持ち上げられたと触れていたとおり、地域からも議会からも歓迎されている制度のようだった。
そこで今回は、本市に地域担当職員を導入すべく、「具体的な運用がどうなっているのか、実際の地域担当職員の方から直接お話を伺えないか?」と打診したところ、快く受け入れて頂いた。
今回、ご説明頂いたのは、中央区役所内に立地する中央区まちづくりセンターの2名の職員の方だ。
■地域担当職員とは何か?
地域担当職員とは、1~3程度の小学校区を受け持って、地域課題の解決を支援するとともに、まちづくりを積極的に支援する専任の職員だ。担当者は、「マイナスを解消するだけでなく、プラスも積み上げる」旨の説明をしていた。なかなかわかりやすい。
地域課題の解決支援としては、2017年4月から配置され、17のまちづくりセンターに49名が在籍し、市内79の小学校区を担当。現在までに約2万件の相談に対応しており、初年度は1,889件に対応し、実に1,600件が解決済、289件が対応中だという。
また、まちづくり支援としては、新たな取り組みも次々と仕掛けている。中央区まちづくりセンターでは、若い層向けに熊本市公認LINEアカウントを作ってヒットさせ広報課に事業を引き継いでもいる。クラウド・ファンディングで資金を集め桜100本の植樹も行っている。河川敷で「お花見マルシェ」というイベントも仕掛けワークショップを開催するなどしてエリアマネジメントも手掛けている。これらは中央区まちづくりセンターのみの事例で、他にも全17のまちづくりセンターで様々な実践を仕掛けているようだ。
いわば市役所の営業マンというイメージだろうか。お役所的たらい回しをせず、ワンストップでどんな相談も受け付けるという面では、松戸市でマツモトキヨシ市長が「すぐやる課」を作ったのにも似ている。まちのコンシェルジュ役でもあり、「サザエさん」の三河屋さん的でもある。ご担当者の言葉によれば、「地域の声を役所の中で通りやすいよう翻訳するのも仕事」とのことで、インタープリター役でもあるのだろう。
■地域担当職員の成功要因と本市への洞察
さて以下、成功の要因と併せて、本市に活かすべき洞察を、私なりに分析してみたい。
●選り抜きを配置
かつて、我が会派の政策としても「行政センター職員を町内会長のところに御用聞きに回らせて、少しでも町内会長の負担を減らせないか?」と考えていたことがあった。このとき我々は、新人の若い職員を研修も兼ねて充てるイメージでいた。一方、熊本市では30~40歳位の、脂ののりきった経験もあってバリバリ仕事のできる選り抜きを充てているようだ。説明頂いた方がそう言っていたのではなく、私の見立てであることを念のため申し添えておく。
おそらく、ここがこの事業の大きな成功要因だろう。新人さんでは、役所の各部署と押し引きもできまい。「役所のどこをどう押せば、物事がスムーズに動いて、町内会長らの納得のいく対応を返せるのか?」。これがよくわかっている人間を選んだわけだ。
●小学校区というコミュニティ単位
熊本市は小学校区ごとに「校区自治協議会」という地域コミュニティ組織をつくっている。おそらく、この単位がいい。
我が市では、おおむね行政センターの単位で「地域運営協議会」という枠組を作ってきたが、地域コミュニティの単位としてはあまりに大きすぎる。この枠組と条例に賛成してきた自らの不明を恥じるばかりだ。
やはり、小学校こそ地域コミュニティの核なのだろう。この観点で、我が市の事業や制度を再考する必要がある。
●継ぎ目のない行政対応
役所に相談に行くと、どの課が担当するのかはっきりしないため、たらい回しにされたり宙ぶらりんになったり、ということはよく聞く話だ。黒澤明の映画『生きる』のコミカルな描写が思い出される。
一方、地域担当職員に相談すれば、こういったことは起こらないようだ。地域担当職員は一切の所管を持っていない。普通の市町村では、一切の所管を持たない職員は市長と議員だけだろう。おそらく、目線としては地域の支援を受けて勝ち上がっている議員と同じような感覚ではないだろうか。だから、どんなに分野横断的な課題でも、ただただ自分の受け持ちの小学校区の地域の案件であれば、地域担当職員の仕事となる。
イメージとしては、行政機構が2つの層になっている形だ。熊本市全体に対して、分野ごとに役割分担した分野別担当者がいる。これは、どんな市町村でも共通している。加えて、熊本市の全ての市域を分割して役割分担した地域担当職員がいる。これによって、継ぎ目のない行政対応が可能となる。
●タブレット端末による情報武装
前述したように、地域担当職員は、一切の所管を持たない。しかし、あらゆる相談や課題に対応しなければならない。しかも、企業の営業マンと同様に外出も多く、職員同士の情報共有が課題だ。
そこで、地域担当職員にはタブレット端末が与えられている。これで庁内のシステムにつなぐことができ、様々な情報を得ることができる。
タブレット端末を与えられているのは、局長以上の職員と地域担当職員だけだという。大西市長が地域担当職員にかける期待のほどが伺えるエピソードだ。
●まちの情報発掘調査員!?
この部分は、視察とは関係のない、私が独自に見聞きした内容の報告だ。
地方紙の熊本日日新聞では、これまでに「地域担当職員がオススメの飲食店」「~涼しいスポット」「~お花見スポット」といった記事を何度も組んでいるようだ。つまり、狭い地域を日々回る中で、地域担当職員はその地域に誰よりも詳しくなっていき、副産物として地元の人にとっては当たり前だけど他の地域の人にとってはお宝な情報の発掘調査員となっているようだ。
最後にまとめを記したい。
地域担当職員を、本市にも導入することについては、メリットこそあってもデメリットは見当たらなかった。市長は、現在の行政センター職員が適切に対応していると言うが、あくまで「守り」であって、熊本市のような「攻めの地域づくり」ができているとは思えない。
かつて、本市でも経済部で海軍カレーを仕掛け「カレー課長」として知られた青木さんが追浜行政センター長として担当していた頃は、追浜でも様々な「攻めの地域づくり」を仕掛けていたと思う。このように、ときどき個の力で新しい動きが生まれることはあっても、仕組みとしては本市に地域づくりのエンジンはなかった。地域運営協議会もその役割を果たせなかった。
本市でも、地域担当職員を導入することは有効だと思われる。引き続き、導入に向けた手練手管を模索したい。
以上で視察報告を終える。
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