
具体的には、大阪城公園の事例だ。
以前の大阪城公園の状況
この大阪城公園は、大きく分けて3つの部分から成る。
(1)大阪城天守閣
(2)大阪城ホール
(3)その他の施設と公園部分
(1)大阪城天守閣は、市の外郭団体に委託(指定管理)しており、来観料収入が多く、年間2億2600万円の黒字だった。
(2)大阪城ホールは、市の公園に株式会社大阪城ホールという民間企業が土地を借りてホールを所有している格好で、民営なので収支は関係ない。
(3)その他の施設と公園部分が、赤字だった。収入は6億円強あったようだが、年間10億6000万円もの経費をかけて管理していた。つまり、(1)大阪城天守閣の黒字を加えても、大阪城公園全体では毎年約2億円の赤字だったようだ。加えて、その他に市職員の人件費もかかっていた。
これだけ聞けば、大阪城公園は大変なお荷物のようにも思われるかもしれないが、行政の常識から考えれば、「まあ、そのぐらいかかるわな。逆に、あの広い公園を市の持ち出し2億円で管理しているのは安いほうじゃないか」という感覚だと思う。ちなみに、横須賀市だと、三笠公園&ヴェルニー公園の指定管理料が年間1億2千万円。くりはま花の国&ペリー公園の指定管理料も年間1億2千万円。あの維持すべき史跡も多い大阪城公園を2億円で管理していたのは全国的には悪いほうではないだろう。
民間活用でエンジェル現る
ところが、2011年12月の橋下徹市長の就任により、民間活力を積極的に取り入れる方針が示されたことで、大きく変わり始めた。
2012年12月、事実上の大阪維新の会「政権」下で大阪府・大阪市による「大阪都市魅力創造戦略」が示され、その中に大阪城公園が重点エリアに位置づけられた。
そして、2013年7月に、民間からの事業提案を募集したところ、「ボクらに運営を任せてくれれば、指定管理料なんて要りませんよ。逆に、公園を使ってお金を儲けるので、売上げに応じて大阪市にお金を払ってあげますよ」という業者が現れたのだ。
そこで、2014年6月に、民有の(2)大阪城ホールを除いた、(1)大阪城天守閣と(3)その他の施設と公園部分を、一括して民営化することにした。委託先(指定管理者)の募集条件は、(1)大阪城天守閣の黒字と同じ2億2600万円を毎年収めること。つまり、(3)その他の施設と公園部分には、一切カネを払いませんよ、という意味だ。また、事業期間は2015~2034年度の最長20年間。一般的に、指定管理は4~8年程度の事業期間とするところが多いが、それでは短すぎて投資回収ができないから民間投資してもらえないため、ある程度長めの設定としたということだ。
この条件の下で、手を挙げてきた事業者の中から大阪城パークマネジメント共同事業体というグループを選定した。
民営化後の変化
さて、この大阪城パークマネジメント共同事業体は何をやったのか。総額50億円以上の投資をして実施したことを、以下列記したい。なお、今回は現地視察はしておらず、会議室で話を聞いただけだったが、その後、プライベートで見物してきたため、その感想も交えていることを補足する。
●MIRAIZA:耐震強度不足で放置されていた歴史的建造物を、耐震補強&リノベーションして、飲食店と忍者グッズなどの物販店の商業ビル化。とりわけ、屋上はパーティスペースとなっており、上層階は高級レストランで、ウェディングなどを狙っている様子。
●大阪迎賓館:1995年のAPEC大阪の際に建設したが、その後はある意味眠っていた施設を、ウェディングなどのパーティもできる高級レストランとして活用。
●Jo Terrace:大阪城ホールは、16000人を収容する一大イベントスペースのようだ。ひとたびコンサートが開かれれば、大阪城公園駅から大阪城ホールまでの約550mには人の波ができることになる。しかし、屋台が並ぶ程度で、「せっかくだから、お食事でもして帰りましょ」ニーズに応えられる、気の利いた店などはなかった。そこで、低層の商業施設を整備。見たところ、安価な鉄骨造だが、ガラスの開口部が多く、部材も安っぽく見えないものを使用しており、照明もウォーム系で統一感があり、オシャレ感は保持している。飲食店を主体に、コンビニや土産物等の物販が並ぶ。
●御座船:太閣秀吉も乗った御座船(今の豪華ヨットに相当か)をお堀に浮かべ、観光客を乗せるもの。船は本物の金箔を貼って豪華なつくりにしてある。
その他にも、次のような企画を手掛け、大成功した。
●園内売店のコンビニ転換
●バス駐車場の拡張
●天守閣のライトアップやプロジェクション・マッピング
●広大な園内をめぐる電車や自動車の運航
●天守閣の前で武将や忍者の格好をして写真撮影するサービス
●ハウステンボスと組んだ夏季のアミューズメント施設(特に大人向けナイトプール)
大阪城パークマネジメント共同事業体は、固定の年間2億2600万円だけでなく、収益の7%も大阪市に払うことを約束していたが、初年度となる2015年度から約1600万円・2016年度には約2700万円を納入した。これは、予想を上回る額であり、20年もかからず、かなり前倒しで投資回収できる見込みだという。
成功の秘訣は何だろう?
この成功の要因は何か。
担当者からは明示的に語られなかったが、私が現地を見物した感覚から、次のようなポイントがあったのではないかと推測する。
●外国人向けのベタな商品・企画
大阪城公園は中国や韓国などからの外国人旅行客が多いようだ。私は平日の16時に訪れたが、8割近くが外国人だった。
なにしろニッポンの城を見に来たわけだ。日本人に訴求するなら歴史探訪なのかもしれないが、外国人のニーズは違う。金ピカの船、戦国武将や忍者のコスチュームをまとった記念の一枚、手裏剣投げ体験、手が届く価格のレプリカ日本刀……。ベタなようだが、きっちりと応えて喜んで頂くのが大事なのだろう。
●日本人向けのユニーク・ヴェニュー
普段は入れない特別な場所でのパーティやレセプションを行うことをユニーク・ヴェニューと呼ぶ。海外では有名美術館で企業がレセプションを開いたりするのが人気で、国も事例集をつくるなどして推奨している。
この点では、かつての大阪城の場内でウェディングやパーティを行うだけでも、すでにユニーク・ヴェニューだ。そして、ほとんどの店舗が、天守閣を間近に望める。それに加え、各国の来賓を招いた大阪迎賓館や歴史的建造物のMIRAIZAなどは、建物自体もかつて一般人は入れない場所だった。この希少性から、高価格帯の団体客が期待できるだろう。
●共同事業体のメンバー
大阪城パークマネジメント共同事業体の構成企業を見ると、ニーズをとらえ、ニーズをつくるための強力な布陣となっていると見た。
公共施設の民間整備(PFI)界隈で、近年、非常に大きな存在感を示している大和ハウスと大和リースが入っている。安く建築し、しかし安っぽくはなく、確実に投資回収ができるスキームを描くノウハウがあるのだろう。
電通と読売テレビは、集客担当だろう。かつて、何もない埋め立て地だった東京・お台場を、本社を置いたフジテレビがメディアの力でテーマパーク化していった。同様に、関西一円の視聴者に新しい人気スポットとして刷り込んでいったのではないかと推測している。
ソレイユの丘やくりはま花の国に活かせるか?
以上、市民のみなさんに少しでも多くの洞察を得て頂けるよう、単に会議室で聞いた話の紹介だけではなく、自らの足で見聞した感想も含めてご紹介した。
問題は、これから横須賀市がどうするかだ。
現在、多くの税金を投入して運営している、ソレイユの丘やくりはま花の国をどうするのか。我々、議員の提案や判断が問われていくだろう。
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