2017年10月26日

【委員会視察報告:前編】棚ぼたラッキースタジアムbyガンバ大阪〜吹田市〜

そもそも委員会視察って、なに?
img_homestadium_main_s.jpg 横須賀市議会の都市整備常任委員会で、10/23〜10/25の旅程で視察に行ってきた。

 我が議会では、議員が4つの委員会に分かれて、分担して市の事業をチェックする。10人×4委員会+議長1人=定数41人となっている。もちろん、全員が全体を見るが、担当委員会は入念に見る仕組みだ。担当委員会は、1年ごとに変わる。
 チェックするだけでなく、調査もして、個々の議員が市役所に助言・提言をしている。この調査には、先行事例の視察調査も含まれる。これを委員会全員で行くのが、委員会視察だ。別に無理に行くことはないのだが、毎年「みんなでこれを視察しようぜ」という声がたくさん挙がり、予算の都合もあるので慣例的に年1回・2泊3日で行くことが多い。
 本来ならば、委員会全体として共通のテーマを持って調査・視察し、委員会全体として助言・提言するほうが効果的だ。そのようにしている議会はいくつもある。ただし、我が議会はそこまでたどり着いていない。そんな声も出ているが、合意形成ができていない。
 以上が、委員会視察の概要だ。

 さて今回、私が所属する都市整備常任委員会では協議の結果、大阪府吹田市、大阪市、熊本市の3都市へ視察に伺った。以下、そこで得られた洞察について報告する。

1日目:吹田市
 吹田市は、人口約37万人の大阪の近郊都市だ。古くから工業が栄え、千里ニュータウンなどベッドタウンとしても栄えたようだ。人口40万人の我が横須賀市と比べると、面積が1/3なので、人口密度約3倍。今年度中には40万人を割り込む気配が濃厚な本市とは対象的に、近い将来に40万人越えが見込まれている。伸び盛りのまちである。

いっさいカネのかからないスタジアム?
 この吹田市に、1970年に開かれた大阪万博の会場となった万博公園がある。ここにサッカーJ1のガンバ大阪のホームとなるスタジアムを建設することになった。
 ところで、これがまた珍しい。なんと、いっさいカネをかけずに手に入れた公共施設なのだ。
 正式名称は「市立吹田サッカースタジアム」。れっきとした吹田市立の公共施設である。しかし、吹田市がつくったわけではない。タダでもらったものだ。しかも、運営にもカネがかかっていない。民間委託しているが(指定管理者制度でガンバ大阪が受託)、なんと委託料はゼロだ。土地は大阪府から借りていて、賃借料も払わなければいけないが、それも同額をガンバ大阪に負担してもらっている。さらに、いずれスタジアムとして使わなくなった際には、大阪府に土地を更地にして返さなければいけない。ただ、それもガンバ大阪が負担するよう、一筆とってある。

 同僚議員が思わず「なんてムシがいい話だ!」と驚いていたが、そう言いたくなるのも尤もな好条件だ。なぜ、そんなことが可能になったのか?

棚からぼた餅、ラッキースタジアムのスキーム
 ガンバ大阪が、大阪近郊にスタジアムをつくることになった。いくつかの候補地の中から、万博公園が選ばれた。このとき、ガンバ大阪と吹田市が描いたスキームは次の通りだ。以下は、わかりやすくするために、少しおおざっぱに説明している。
 土地・資金集め・建設の大きく3つの面で、うまいカラクリのあるスキームだ。

(1)土地のカラクリ
 万博公園は、大阪府の土地である。もしも、ここに民間企業であるガンバ大阪がスタジアムを建設するとなれば、約3億円の賃借料が必要だった。しかし、非営利目的の行政であれば1/2減免となる。そこで、吹田市が土地を借り、吹田市の「公の施設」として建設することにした。これで、約1.5億円になった。
 行政が借りることには、もう一つメリットがあった。もしも民間が土地・建物を保有すれば、市に固定資産税を払わなければいけない。しかし、吹田市が吹田市に税金を払う必要はないため、無税となる。

(2)資金集めのカラクリ
 スタジアム建設の資金、約141億円の集め方にも工夫があった。
 うち約106億円は、寄付で集めることとした。このとき、ガンバ大阪という民間企業が寄付を受けると、寄付した人には何のメリットもない。残るとしても名誉だけだ。しかし、行政や認定NPOなどに対する寄付であれば、税制上の控除がある。ひらたく言えば、「寄付とは言っても、それは世の中の役に立つお金だよね? だったら、その分、税金を少しオマケしてあげましょう」という制度を国税庁がつくっている。そうすると、寄付することへの抵抗感をいくらか払しょくできる。
 とりわけ寄付額約106億円のうち約100億円を拠出したのは民間企業だ。企業の場合、本来ならば株主に分配するべき利益を減らして寄付などしてしまうと、株主代表訴訟で経営陣が訴えられる可能性がある。だからこそ、寄付にあたっては「会社の知名度を高め、名声を得るための投資なんですよ」と説明できなければならない。ここに加えて「いやいや、寄付したお金のかなりの部分は法人税・法人市民税が控除されるので、ちょっとの投資で大きな広告効果が得られるんですよ!」と説明できれば、経営陣も安心して寄付できるというものだ。
 では、寄付を受けたのは吹田市だったのか。実は違う。ここにもうひとつカラクリがある。
 寄付を受けたのは、事実上はガンバ大阪である。ただし、控除は受けられた。ひらたく言うと「いずれ行政へと無償譲渡する施設建設のための寄付は、行政への寄付と同じようにみなしますよ」という国税庁の通達がある。ガンバ大阪は、この適用を受けて寄付を集めたのだ。

 また、建設資金のうち約35億円は、助成金・補助金で集めた。うち大半を占める30億円を拠出したTOTOくじのスポーツ振興くじ助成金は、行政が申請して行政を経由しないと受け取れない。そのため、吹田市の関与が必要不可欠だった。

(3)建設のカラクリ
 建設費用約141億円も、吹田市が建設したのでは、この金額に収まらなかっただろう。行政が公共施設を建設すると、高コストになりがちだ。
 行政には公平性と透明性が求められるため、厳正な入札を行うために事務コストがかさむ。さらに、それを設計・建設・設備などに分けて発注し、それぞれの段階で検査も行うため、その分、事務コストはかさむ。また、行政が進行管理を行うために時間もかかり、また事務コストがかさむ。
 そこで、建設は民間が担った。ガンバ大阪を中心とした任意団体が寄付と補助金を集め、その約141億円で建設した後に、吹田市へ無償譲渡した。
 これによって、設計と建設を分けずに一貫して施工できた。また、設備まわりも、ガンバ大阪のメインスポンサー(おそらくパナソニックだろうと想像している)に一括発注することでコストを抑えることができた。旧松下電工を合併し、照明から建材・太陽光パネル・トイレ周りまで一通り揃えられるパナソニックならうなづける話だ。

それって、本当に吹田市のスタジアムなの?
 以上、「棚ぼたラッキースタジアム」のカラクリは納得頂けただろうか?
 ところで、「いっさいカネがかからない」と書いたのは、正確には間違いだ。ひとつだけ、市がカネを払わなきゃいけないことがある。
 それは、市がスタジアムを使ったときだ。

 「吹田市の施設なのに、吹田市が使ってもカネをとられるの!?」と驚くかもしれない。吹田市役所内でも驚かれるそうだから無理もない。
 また、実は吹田市民がサッカーに使うことはできない。もちろん、VIPラウンジや会議室などの付帯設備は、カネを払えば予約して使える。それは普通の貸館施設と同じだ。しかし、ピッチ部分は芝を養生するために一般利用を認めていない。
 このエピソードは、或ることをほのめかしている。それは「このスタジアムは事実上、吹田市のものじゃない」ということだ。吹田市立というのは建前で、実際にはガンバ大阪のものなのだ。
 そう考えれば合点が行く。

穿った見方をしたが、「三方よし」なら、まあいいか
 では、それは悪いことなのだろうか?

ガンバ大阪にとって
 自前で保有すれば払わなければいけなかった土地賃借料も約1.5億円の半額免除となった。おまけに、吹田市に払うハズの少なくない額の固定資産税も不要で済む。
 「タックスヘイヴン」や「ペーパーカンパニー」よろしく間に吹田市を噛ませることで、寄付も集めやすくなった。助成金ももらえた。形式上は吹田市の施設なので多少の制約は受けるが、肝心のピッチは独占的に利用できる。

吹田市にとって
 ガンバ大阪と一緒に知恵を絞ってスキームを描いたことで、公費投入ゼロで市内に公共施設ができた。もちろんサッカー場として市民利用に供することはできないが、いざ災害が起きれば防災拠点としても使えるれっきとした公共施設だ。
 また、固定資産税は確かに入ってこないが、そのまま公園として使われ続けても、どのみち固定資産税はとれなかった。損はしていない。
 むしろ、サッカーJ1のホームという集客力のある施設が市内にあることで、隣にある商業施設の売上向上も期待でき、交流人口が増えて人が動けばお金も動き、市内の雇用増や税収増も期待できる。

大阪府にとって
 確かに、民間が借りてくれれば、1.5億円ではなく3億円の収入があったはずだ。しかし、公園を営利企業に貸すには様々な制約が想定される中で、民間借上げは望めなかっただろう。むしろ、47年間の定期借地計画で、これまでなかった1.5億円の収入が毎年入ってくるわけだから、資産の有効活用だ。
 しかも、多くの府民が足を運ぶわけで、利用度の面でも行政資産の有効活用と言える。

国にとって
 国は、税収から控除されてしまうと収入が減るので、損したと言えるかもしれない。ただし、仮に最初から吹田市が自前でスタジアムを建設するとなれば、何らかの国の補助金をあてにしたはずであり、逆に言えば国も補助金の支出を抑えることができたとも言える。
 しかも、スタジアムがなければ何のお金の動きもないが、スタジアムができることで民間の経済活動が行われたわけで、そこには消費税も所得税も発生し、最終的には法人税などにも跳ね返ってくる。その点では、むしろ国にとってもトクな面も大きい。

寄付者にとって
 寄付をした人は、おカネを払っており、いわば損している。しかし、大好きなガンバ大阪の試合をすばらしいホームスタジアムで観られるわけで、新しい付加価値を手に入れることに納得しておカネを拠出しているという意味ではトクしている。

 ……結局のところ、誰ひとり損していないのだ。
 少し斜めの目線で穿った見方をして検証してきたが、とどのつまり「三方よし」どころか「五方よし」状態なので、何も言うことはない。成功したプロジェクトだ。「民間と協力して知恵を出し合えば、こんなこともできるのだ」というケーススタディとして、大いに参考になった。
 なお、せっかく吹田市の担当者が丁寧に説明してくれたのに、厳しめの筆致となったことについては、人口増に加え棚ぼたでスタジアムを手に入れた吹田市への嫉妬の表れということでご容赦頂きたい。
 以上で、初日の視察報告を終える。
posted by 小林のぶゆき at 15:58| Comment(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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