2017年04月29日

【視察報告後編】横須賀に市電(LRT)はなじむのか?〜富山市〜

 視察3日目は富山市だ。「せっかく舞鶴に行くなら、同じ日本海側だし経費節約のためにもまとめて行きたい」と思ったところ、日程を快諾頂けた。
IMG_3077.JPG
 富山市には何年も前から行きたかった。もちろん、お目当てはLRT(新型路面電車)だ。
 私は、「ヨコスカ市電計画」なる構想をブチ上げ、我が市へのLRT導入を目論んでいる。

 その実現可能性を探るべく、先進事例の富山市がどうやって日本初でLRTを導入できたのか、その秘訣が知りたかったのだ。

 ありがたいことに、路面電車推進課7年目の土木職の専門家にお話を伺うことができた。っていうか、「路面電車推進課」なる部署があるまちは、日本広しといえども富山市ぐらいじゃないか?


鉄道をめぐる近年の状況

 富山市の事例の前に、鉄道をめぐる概況をおさらいしておきたい。
jimin19860522.png
 1987年に国鉄が民営化された。当時の政権は右の新聞広告のように「不便になりません。運賃も高くなりません。」と謳っていたが、約束は守られなかった。不採算路線では、減便や廃線が検討されることとなった。
※読売新聞1986年5月22日号国会資料より引用
 「ローカル線(特定地方交通線以外)もなくなりません」との言い方も、我々庶民にはわかりにくい。約80路線にも上る特定地方交通線のほとんどが、庶民が思い描く「ローカル線」そのものだったはずだ。もちろん、全ての路線を残すべきだったとは言わない。不可能だ。とはいえ、やはりこの広告はあまりに不誠実だったのではないか?
 いずれにしても、この民営化に、モータリゼーションによる乗客減と、現役世代の減少に続く人口全体の減少が追い打ちをかけていった。

 ところで国鉄と違い、日本の私鉄は「民鉄モデル」を確立している。つまり、鉄道だけではなく同時に沿線の不動産開発をし、住宅や商業施設も整備することで、鉄道だけでは儲からなくても小売や不動産も含めた連結で利益を確保するというモデルだ。これなら、線路は維持できる。
 ただし、旧国鉄は「民鉄モデル」が不要だったために、鉄道事業以外の収益源に乏しい。JRへと民営化し、近年でこそ、駅ビルやエキナカなど不動産と小売に力を入れているが、都市部の話だ。地方においては、それらが成り立たず、収益源にならない。また、私鉄なら自分が敷いた沿線に住む住民に対して線路を維持する社会的責任も感じるだろうが、自分で線路を敷いたわけではないJRにとっては、路線を維持する道義的な責任も薄いだろう。さらに、新幹線と平行して走る在来線は競合するため、JRから経営を切り離せる制度となっている。それらの路線を、行政や第3セクターが引き受けるケースも多い。
 かくして、旧国鉄路線をはじめとして、日本全国で廃線や減便が相次いできた。

 ここで考えたいのは、「廃線をする鉄道会社は悪いのか?」ということだ。
 鉄道会社は公的な事業とはいえ、あくまで民間企業である。株式会社であれば、第一義的には株主に対して利益を最大化する責任がある。もちろん、経営には多様なステークホルダーへの配慮やCSRの観点も重要だ。しかし、赤字を垂れ流し続ける不採算路線をあたかも慈善事業のように維持し続けていれば、経営陣は説明責任を問われ、株主代表訴訟を起こされる可能性すらある。そこへ「企業の社会的責任を!」と叫んだところで、二宮尊徳先生から「経済なき道徳は寝言だ」と言われるのがオチだ。
 つまり、私は「そこまで鉄道会社を責めても仕方ないでしょ」と考える。

 じゃあ、どうすればいいのか? どんどん減便され廃線されていく様を指をくわえて見ているしかないのか?
 いや、そうではない。
 ここで海外に眼を転じてみたい。両備グループ代表・小嶋光信氏の言葉によれば、実は「日本は公共交通のガラパゴス」らしい。
 ケータイにおいては、ゴテゴテと機能を付加する形で垂直統合型の独自の進化を遂げた日本の「ガラパゴス・ケータイ」が、水平分業型のスマートフォンの台頭によって駆逐された。同様に、日本の公共交通も海外と比べて独自の進化を遂げていた。日本の特徴は、公共交通を行政が支援しない点にある。
 日本においては、高度成長期の人口増と経済成長という恵まれた時代背景もあって、先に述べた「民鉄モデル」があまりにも成功した。そのため、「公共交通は民間が担うもの」という常識が生まれた。しかし、日本の常識が世界の常識ではない。また、成長局面において成功したモデルが、成熟局面においても機能するとは限らない。だが、成功体験が邪魔して、発想の転換ができなかったばかりに、多くの行政が、まちの衰退を招きかねない公共交通の廃線や減便をみすみす放置し続けてきた。
 ちなみに、我が市も例外ではない。全く同じ構図が当てはまると私は見ている。3.11以降のJR横須賀線の減便、湘南新宿ライン発着駅の横須賀駅から逗子駅への変更、逗子駅乗り換えの増加……。こうした利便性低下に対して、JR東日本に「お願い」するばかりで何の手も打ってこなかった。営利企業に、利のない「お願い」で動いてもらおうなんて虫のいい話だと気付かないあたりが現市長の限界であり、旧常識の足かせに囚われすぎだと言える。
 一方、とりわけ欧州においては、公共交通を行政が担うことは一般的なようだ。もちろん、日本でも市電などは行政が担っている。しかし、民営の公共交通に行政がカネを出す、ということには違和感を覚える向きも多い。だから、正確に言えば、民間が担っている公共交通に対し行政支援することが一般的だ、ということになる。

大成功事例としての富山市

 こうした文脈の中に、富山市のLRTはある。
 廃線も選択肢に挙がっていたJR富山港線を、「そんなの、あなたがた事業者の仕事でしょ」と放置することもできた。そのかわりに、富山市は知恵とカネを出して公設民営方式のLRTとして再生した。続いて、長年にわたり廃線となっていた環状路面電車を、公設民営方式のLRTとして再生した。
 いずれも、民間事業を行政が支援しながら、行政ニーズにも応えてもらう形をとった。その結果、ノウハウのない行政が丸抱えすることに比べ、比較的に少ない投資で大きな効果を生んだ。
 沿線の住宅着工件数は増え、地価も上がり、沿線への転入者も増加し、高齢者や女性などの交通弱者の移動手段も確保され、出歩くことで健康寿命も伸び、ついでに市内消費額も増加し、何よりも市民の利便性と満足度が向上した。
 より露骨に言えば、いずれの鉄道事業者とも利益が出ており、市長はこの実績を引っ下げてあちこちで表彰されて選挙でも圧勝し、市内事業者には初期投資や運営経費含め様々なおカネが落ちた。みんながWin‐Winで、誰も損しない。政策のあり方として、こんな上策はない。

事業の採算性について

 では、富山市の支出額はいくらあり、それは費用対効果で見合う額だったのか?
(1)ポートラム:JR富山港線のLRT化(富山駅北側)
(2)セントラム:LRTによる環状路面電車の再生(富山駅南側)
 富山市が関わったこの2路線について、それぞれイニシャル・コストとランニング・コストに分けて概観してみたい。

(1)ポートラム:JR富山港線のLRT化(富山駅北側)
IMG_3061.JPG
●イニシャル・コスト(整備費用)
 全体の整備費用としては約58億円だったという。ただし、元々進められていたJR富山駅の高架化と併せて整備したため、二度手間になる部分を避けることができたうえ、一定の費用を高架化のサイフで賄うことができたという。加えて、国からも補助があった。さらに、事業主体はあくまで第三セクターの冨山ライトレール株式会社であるため、事業者の投資によるものもあった。
 そのため、事業者への助成や市が担当する区間の整備費用など、富山市による純粋な投資額は約17億円だったという。うーん、安い。

●ランニング・コスト(運行費用)
 冨山ライトレール株式会社の2015年度の収支としては、約3億7300万円の収入に対し、約3億5000万円の支出で、黒字だという。ただし、これが黒字になるのは、富山市が「運行事業補助金」として7000万円を補助しているためだ。
 また、その他に、車両と軌道の一部区間は市が保有しており、その維持管理に毎年約1億円がかかるという。
 つまり、市としては年間1億7000万円をかけてポートラムを走らせていることになる。別の言い方をすれば、年間1億7000万円をかけることで運賃を全区間一律200円に抑えているとも言える。
 これをどう考えるか?
 おそらく、運賃が300円になれば、同じ乗客数なら補助金不要だ。しかし、300円なら乗客は減るだろう。そうすれば自然と広告費収入も減ることになる。つまり、公的補助なしで全てを賄おうとすると、路線が成り立たなくなる。かといって、減便などのコストカットをすれば、さらに乗客は逃げ、負のスパイラルに陥ることになる。おそらく、現時点での均衡点が7000万円の補助と、1億円の維持管理費負担なのだ。
 富山市は人口42万人で、一般会計の規模は約1500億円だ。横須賀市は人口40万人で、一般会計の規模は約1400億円。だいたい同じ規模だ。
 このうち1億7000万円をかけて、ポートラムを維持できるなら、それは安いんじゃないだろうか?

(2)セントラム:LRTによる環状路面電車の再生(富山駅南側)
IMG_3076.JPG
●イニシャル・コスト(整備費用)
 全体の整備費用としては約30億円だったという。ただし、国庫補助が約13億円あり、富山市による純粋な投資額は約17億5000万円とのこと。うーん、安い。
 これにはカラクリがある。既に富山地方鉄道という会社が富山駅を起点に逆V字型に2系統の路面電車を走らせていた。この逆V字の間に2系統をつなぐ路線を市が敷設して、A字型にした。さらに、このA字の上半分の△の中を環状線として、市が提供した新型車両を走らせた。簡単に言うとこういうことだ。つまり、市がやったことは、(T)逆V字をA字にするための940mの軌道を敷いたこと、(U)できた環状線を専用に走らせる3編成の車両を購入したこと、それだけだ。しかも、この環状線はかつてあった区間で、目新しい発想ではない。

●ランニング・コスト(運行費用)
 運行費用はもっと面白いことになっている。簡単に言うとゼロだ。
 より正確に言えば、富山市が敷いた軌道は富山地方鉄道に有料で貸し付けるが、同額を維持管理費等として富山市が同社に払う。また、環状線分の運賃は同社に入ってくるが、その額が富山市からの環状線の運営委託料代わりとなる。
 路面電車としては全国初の上下分離方式とのこと。ランニング・コスト0で新しいサービスを提供できたわけで、なんともうらやましすぎるスキームだ。しかも、この環状線は儲かっているらしく、富山地方鉄道側は車両をもう1両増やしたいと言ってきているそうだ。

横須賀市への洞察

 ご担当者のお話を私なりに整理すると、富山市は4つの面で恵まれていたと言える。
A)既存路線の設備を活用できた

B)同時期にJR富山駅を高架化する計画があり、併せて整備することができた

C)市長に先見の明があり、富山駅の高架化話が出た際にトップダウンで決断した

D)以前から路面電車があったため、市民の理解があった。新設する宇都宮のような、賛成派と反対派に分かれた政治的対立はほぼなかった。

 翻って、我が市はどうか?
A)「ヨコスカ市電計画」では、既存のJR横須賀線への乗り入れをする構想もあるが、かなり難易度は高いだろう。おそらく、既存設備の活用は期待できず、新設が中心となる

B)久里浜駅前への総合病院建設など都市機能整備を行い、それに併せてJRと京急の連絡通路を整備すれば、結節点としての機能強化となり、乗客増加が見込める

C)市長に先見の明などない。投資のできない、ただのシブチン。首をすげ替えなければ何も動かない

D)かつて市電の路面電車計画もあったが、京急がその計画を埋めた。市民の顕在ニーズはない。加えて車社会化しており、行政主導の公共交通への理解も得られにくい。おそらく、宇都宮と同様の政治的対立が起こるだろう。京急とJRに対しても、乗客の取り合いではなく自動車から公共交通への誘導、というコンセプトを理解頂かないと摩擦を生む可能性あり

 以上、富山市と比べると条件は恵まれていない。非常な困難が予想される。しかし、50年後のこのまちのあり方を考えれば、都市の骨格としての公共交通は重要だ。とりわけ枝と幹で言えば幹となる鉄道の整備は今からでも必要だと考える。
 今後も、構想を実現する方策を温めたい。
posted by 小林のぶゆき at 23:17| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前:

メールアドレス: [必須入力]

ホームページアドレス:

コメント:


この記事へのトラックバック