会派視察報告【神山町】IT企業を呼び込む成功則はあるのか?

IMG_1646.JPG 前回に続き、会派視察報告です。

 3日目最終日は、徳島県神山町です。
 企業誘致は、大きな工場だけじゃない。小さいけど若くて強い会社に移ってきてもらったり、市内で起業してもらったりすることも、まちを元気にします。
 そこで、IT企業のIターン型誘致で全国から注目を集める神山町に行ってヒントを探りました。
※写真は、転入企業が整備した施設で最も有名な「えんがわ」

 結論から言うと、ヒントはよくわかりませんでした。
 「は? オマエ、税金使って視察行っておいて、よくわかんなかったじゃ困るんだよ!」とお叱りを受けそうですが、正直言ってそうなんです。それに、私はよくわからないものを、もっともらしく知ったかぶりするほうが害が大きいと考えています。ソクラテス的に、何がわからないかをわかるようにしておくことって大事だと思うんです。

 「わからなかった」というのは、神山町での取り組み内容ではなく、企業、特にSOHO(Small Office Home Office)的な会社が何を重視して立地を選ぶのか、ということ。色々な要因があるので、「こうすれば、誘致成功まちがいなし」みたいな定理や方程式はないんじゃないかな?と思ったんです。

 多分、教科書的に言えば、生態系(EcoSystem)が大事ということになるのでしょう。
 以前、うちのインターン生の勧めで『「シリコンバレー」のつくり方』という本を読みましたが、シリコンバレーにはスタンフォード大学やカリフォルニア大学群があり、テキサスにはテキサス大学がある。こうした大学が重要らしいんです。大学が技術の種(Seeds)や人材の供給源として生態系の中心に位置し、そこにエンジェル投資家やベンチャー・キャピタル、先輩起業家、スタートアップ企業などが集って生態系を形成する。結節点(Node)に、エネルギーの高い人と最先端の情報が集まり、化学反応や核融合を起こして新しい技術やサービスが世に送り出される。その対価として売上金と資本金、大学には寄付金が集まり、それを燃料にイノベーションのエンジンが加速していく。
 たぶん、集積地にはこういう構図が一般的なんでしょう。
 日本でも、多くの大学・企業が集まる東京は、大きすぎてやや拡散気味ですが、当然その構図がある。戦後、多くの世界的なベンチャーを生み出した京都も、京都大学をはじめ多くの大学が人材と出資者を集めたことでしょう。最近だと、つくば学園都市もアツいようですが、そこには日本のパデュー大学と言われる筑波大学がある。
 一方、日本でも各地でナントカバレーが一時期流行りました。かつて隆盛を誇った渋谷ビットバレーも、最近の人には「何それ?」状態だろうなあ。いったんブームが去った観がありますが、たぶん永続きする生態系にはならなかったのでしょう。
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 その観点で、神山町と横須賀はどうなのか?
※写真は上から、サテライトオフィス、オープンした宿泊施設の宿泊棟、食事などの棟、「えんがわ」のバックアップ用電源としても使われている日産LEAFの充電器

 神山町には、大学なんてありません。人口約5千人。町内には電車もなく、県庁所在地の徳島市内まで車で50分、徳島空港まで70分。行政が特別な優遇策や進出支援のメニューを持っているわけでもない。徳島県内には高速インターネット回線が張り巡らされて日本一ということ以外に、特に優位性はない。
 神山町を選んだ多くの企業は、NPO法人グリーンバレーを中心につくられたアーティストやリノベーションをする建築家などのコミュニティを気に入って移転している感じです。グリーンバレーは、アーティストに滞在してもらって創作してもらうArtist In Residenceなどアート系の取り組みからまちづくりを始め、現在では神山町の農村環境改善センターという施設の指定管理者として、「人材誘致」に取り組んでいるようです。
 ただし、説明してくれた担当者に聞いて驚いたのが、グリーンバレーは「ぜひ神山町に来てください!」という勧誘はしていないとのこと。「フィーリングが合えばどうぞ」ぐらいの感じみたいです。最も中心的な「えんがわ」という所に立地する(株)プラットイーズという会社も、「熱心な勧誘をされなかったのが良かったから神山にした」旨のことを言っているらしい。

 この話に教訓があるとすれば、よくある成功譚みたいに「担当者の熱意が伝わって誘致につながりました!」みたいな根性論の前に、まち自体に魅き付ける力が必要ということかもしれません。何でも売れる強い営業をつくるのも大事だけど、誰でも売れる強い商品をつくるほうが楽、というよくある話ですね。


 最近だと、お隣の鎌倉市でカマコンバレーと称してIT企業の方々が集まってまちづくり的活動をしているようです。
 鎌倉に技術的シーズを生み出すような大学はない。企業の研究所は少なくないけれど、それが外部と連携して生態系を形成している感じもない。けれど、鎌倉に集まってくる背景には、鎌倉の住むまちとしてのブランド力があるのでしょう。
 また、カマコンバレーの場合は、ここから企業を世に送り出すというより、集まった企業で鎌倉のために何かをしようという感じなので、他のナントカバレーたちとは方向性が違うみたいですね。

 一方で、横須賀はどうか?
 大学は県立保健福祉大・防衛大・神奈川歯科大があります。ただ、いずれも技術的シーズを生み出して開放的に外と連携するという感じではない。
 ただし、研究所は充実しています。YRPにNTTの通信研究所があり、多くの大企業が通研を取り囲むように研究所を構えました。今でこそ停滞気味ですが、ここはケータイ発祥の地と言われ一時期は世界のケータイのトレンドを牽引した場所です。電力会社が出資しあってつくった電力中央研究所や海洋研究開発機構(JAMSTEC)も立地しています。これらは、関連産業を引き連れて通信技術や原子力などそれぞれの生態系を築いています。ただ、国を背負った大企業による垂直統合的生態系なので、シリコンバレーのような開放系の水平分業的生態系ではない印象です。

 こうした中、ヨコスカバレー構想という動きがあります。IT企業を中心に10年・100社・100億円の集積を目指す市の狙いに賛同して、市内のIT系を中心とした小粒ながらキラリと光る企業も集っているものです。
 谷戸地区を谷(Valley)に見立ててヨコスカバレーと名付けたようです。市はスタートアップ企業支援制度を各種取り揃えました。私が最初に務めたベンチャー企業で同期だった相澤謙一郎くんの率いるタイムカプセル(株)が市内谷戸立地企業第一号のようで、新聞やTVでもよくとりあげられていて誇らしいです。というか俺も見習わないと(苦笑)。


 ヨコスカバレー構想は、このまま成功できるでしょうか?
 神山町みたいにアートで魅き付けるべきでしょうか?
 それとも鎌倉みたいに住むまちとしてのブランドで魅き付けるべきでしょうか?
 シーズを生み出す大学を誘致すべきでしょうか?
 私は、答えや確信を持っていません。でも、成功の確率を上げる方法ならいくつかある気がします。

 横須賀に鎌倉みたいな住環境ブランドはないですが、実態としては負けてないので、優れた住環境をきちんと伝えていく努力は今後もすればよい。

 シーズという面では、供給元の大学誘致を待っているわけにはいかない。かといって、市内の研究機関に過度な期待もできない。だからこそ地域特性に目を向けてはどうだろうか。
 横須賀には常にアメリカとの接点があります。保守の僕としてはフクザツですが、米軍基地内はアメリカの慣習や法律が適用されており、いわば目の前にある外国です。基地内に入るときにパスポート持参を求められるくらいですから。そこで、アメリカのモノやコトを日本に持ってきたり、日本のモノやコトをアメリカに持って行くような中に、技術シーズはなくても商売シーズならたくさん見つかるんじゃないか?
 貿易は、常に差のある間で成立します。価格差、需給ギャップなど、日米の差の「断面」が目の前にあるまちなんてそんなにないハズですから。

 そして、重要なのがコーディネーターと溜まり場の存在だと思います。横須賀の中で生態系の結節点となりハブとなる人と場。
 横須賀には、既に産業交流プラザという施設が芸術劇場下にあり、スペースもあり人もいる。でも、基本的に貸館に過ぎず、いる職員も施設管理の用務員でしかない。産業の交流を促進してイノベーションを生めるか、という観点では死んでます。創業支援オフィスという名目のレンタル事務所も間に合わせに過ぎず、インキュベーション感が皆無。横須賀市産業振興財団が所在しているのが唯一の救いで、ここはきちんと産業交流をしていますが、どちらかといえば既存の中小企業を対象としていて、ベンチャーやスタートアップのインキュベーション系の雰囲気ではない。
 民間では、とあるNPOがヨコスカテラスというコワーキングオフィスを市役所隣に開設し、ビジネス生態系のハブになるかと私も期待していました。ただ、せっかく市内の篤志家や実業家の協力で開設できたのに、管理者が排他的かつトラブルメーカーなので、今のままなら期待薄と私は見ています。
 市民活動においては、市民活動サポートセンターという場があり、歴代有能な方々が管理者を務めてきたことで、横須賀の非営利組織や市民社会の発展に大きく貢献したと私は見ています。これの営利版・ビジネス版が必要です。
 いわゆる行政施設の雰囲気ではない場を用意し、いわゆる役人風ではないコーディネーター的な人を見つけてきて、のびのび楽しそうにやってもらうこと。これができるかどうかがヨコスカバレー構想の分かれ道かもしれません。

 市長には、アドバルーンを上げるだけでなく、実を込める気迫があるか? 腹をくくってやる気があるなら、議会だって後押しするはずです。「子供が主役になれるまち」イメージ先行事業だけでなく、このヨコスカバレーなる創業支援事業でも、市長の本気度が問われています。

この記事へのコメント

  • 小坂 浩人

    こんにちは、ブログは時たま拝見させていただいておりますが、このようにコメントさせていただくのは初めてとなります。

    私は市内でIT系開発やサービスを営む傍で、今回投稿で取り上げていただきました、ヨコスカテラスにつきまして運営の一部をNPOよりお任せいただいております、小坂と申します。

    早速ですが、今回小林様が投稿されました内容を拝見させていただく限り、ヨコスカテラスの現状とは大分かけ離れているような印象を私は受けました。
    もしよろしければ小林様が現在お持ちのヨコスカテラスに関する情報のアップデートのためにも、一度ヨコスカテラスにお越しいただくことは叶いませんでしょうか?

    現在のヨコスカテラスには、建築士、保険販売業、飲食店経営、司法書士、行政書士、中小企業診断士、語学教育、地域観光開発、新聞編集者、映像制作、グラフィックデザイン、コピーライター、UXデザイナー、Web制作、Webサービス、ソフトウエア開発、ゲーム開発、イベントプロデュース、ペット介護といった利用者の方々にご利用いただいており、ITクリエイティブ系の会員だけでも8名居りまして、内2名はこの7月に鹿児島から横須賀への転入者で、これからヨコスカテラスを起点にIT系の新規事業に取り組むところです。
    また会員内同士での協業や取引、新規プロジェクトも活発に行われております。
    こうした現状を先ずは一度見ていただきまして、さらには今後のためにも意見交換などもさせていただければ幸いです。

    どうぞよろしくご検討のほど、お願い申しあげます。

    2015年07月24日 13:42

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